中国「スパイ摘発」強化。相次ぐ日本人拘束。中国の人質外交に警戒を!【後編】
幸福実現党党首 釈量子
◆邦人拘束に対する対応
前編で、中国による邦人拘束を取り上げましたが、どうすべきでしょうか。
現実的な対応としては、日本企業も、中国の生産拠点を日本に戻す「国内回帰」を加速させるのが最良です。
これは以前から幸福実現党も訴えてきたことで、コスト面で難しい場合は、アジアにシフトすることも検討すべきと思います。
例えば、アップルは、中国依存を減らすために、数年前からiPhoneの生産拠点をインドに移しています。
今年4月には、アップルのiPhoneを受託生産している台湾のフォックスコンが、インド南部カルナタカ州で7億ドル(約950億円)を投資する新工場建設を発表しました。
アップルはインドの生産量を世界全体の25%まで増やす予定です。
◆政治哲学に基づく正論を!
「反スパイ法」を機に企業も個人も中国リスクを考え、国としても、甘い考えを捨て、中国と根本的な違いを知って対処しなければなりません。
米国コンサルティング会社に中国警察の立ち入り検査があった際、中国の報道官は、次のように滔々と語りました。
「私たちは市場原理、法の支配、世界標準のビジネス環境を促進することに取り組んでいる。全ての企業は中国の法に従うべきである。」
しかし、中国の言う「法の支配」は、欧米とはまったく違います。欧米でいう「法の支配」は、「人の支配」に対置される考え方です。
17世紀前半、イギリスで国王と議会が対立していた時に、「王権であっても法によって制限される」という考え方が出てきました。
映画「ブレイブハート」でも、暴君として描かれるジェームズ一世が「王権神授説」を掲げて議会と対立しました。
王は演説で「王は地上において神にも類する権力を行使しているのだから、神と呼ばれてもよい」という現人神のような強硬な姿勢を取りました。
それに対し、エドワード・コークが「国王といえども神と法の下にある」という(ブラクトンの)法諺を引用して諫めたというのが残っています。
まずイギリスで、「国王と雖も一般的な慣習法として続いている法を尊重し、それに従うべきであるという「コモン・ローの理念」が出てきました。
その後、アメリカ独立戦争を経て、「憲法」によって国家権力を縛り、国民の財産や人権を守るようになりました。
このように「法の支配」は、英米法の中で発展してきたもので、個人の私的領域への国家権力の介入を排除し、個人の自由を保障する「自由権」を確立するのに、清教徒ピューリタンたちの努力があったことを忘れてはいけません。
彼らが神の子として信教の自由を確立するために立ち上がった結果、米国の独立宣言には「すべての人間は生まれながらにして平等であり、その創造主によって、生命、自由、および幸福の追求を含む不可侵の権利を与えられている」と明記されるに至りました。
合衆国憲法には「いかなる国家権力であっても創造主から与えられた自由を侵すことはできない」という考え方が根底に流れています。
こうした観点を理解しないと、「法の支配」といっても形だけになってしまいます。
◆中国がいう「法の支配」とは
中国がいう「法の支配」というのは、こうした基本的人権とは全く違う意味で使っています。
本質的には、始皇帝の時代の「法家思想」から変わらず、皇帝が性悪説に基づいて人民を統治するための道具だという考えは変わっていません。
中華人民共和国憲法の序章には「国家は中国共産党の指導(領導)を仰ぐ」と書かれ、習近平国家主席の意向が如何様にでも反映される独裁体制です。
都合の良い法律を制定し、人々を支配するための道具として「法」を利用しています。
習政権発足以降、ウイグルやチベット、香港における人権弾圧を正当化するために、幾つも法律を作り、法律によって、人権の中の人権と言われる信教の自由が侵害されてしまっています。
中国では、法律の運用も、非常に恣意的です。
これに関しては、自由の哲学で有名なハイエクが著書「隷属への道」の中で、こう言っています。
「法の支配とは、政府が行うすべての活動は、明確に決定され前もって公表されているルールに規制される、ということを意味する。」
つまり、本来の「法の支配」というのは、政府が個人の活動を場当たり的な行動によって圧殺することは防止するためのものであり、誰もが知っているルールの範囲内なら自由が守られ、政治権力が意図的にその活動を妨げるようなことはないことを意味するわけです。
今回の中国の「改正反スパイ法」などは「国家の安全と利益」の定義が曖昧で、当局はいつでもだれでも恣意的に拘束できるとなると、経済活動どころか、自由は根こそぎ奪われます。
当局の都合の良い理由で拘束されるなどという不条理は、耐え難いものです。
中国の言う「法の支配」とは名ばかりであることを、中国に進出している企業やビジネスパーソンは理解して、今後の行動を考えるべきです。
「法の支配」の成立過程を見てもわかるとおり、そのバックボーンにはキリスト教的精神がありますが、日本も、善悪や正義の根源にある宗教的精神をないがしろにしています。
幸福実現党は「正しさとは何か」を、神の心宗教や哲学の面から考えます。大川隆法党総裁は次にように指摘しています。
「『法の支配』といっても、『やはりそのもとには、法哲学がなければいけない。憲法の上に法哲学があって、法哲学や政治哲学の上に、やはり神の正義がある』と思っていて、その観点で、『正しさとは何か』ということをずっと考え続けていたので、『間違っているものは間違っている』」(小説「内面への道」余話)
自己中心的な政治指導者の国の、侵略主義に対処するには、政治哲学や政治思想が必要です。
日本の政治家も、確固たる政治哲学や信仰心を持って、中国に対して正論を言うべきではないでしょうか。
幸福実現党は「自由・民主・信仰」の普遍的価値観を掲げ、国防や外交を進めるべきだと考えていますし、中国の民主化を促すべく、人権擁護の働きかけも続けていきます。