プーチンは侵略者なのか?マスコミが報じないウクライナ危機の真相【第1回】
https://youtu.be/A4E221cNSRY
(2月8日収録)
幸福実現党党首 釈量子
緊迫化しているウクライナ情勢をきっかけに、いま米露対立の危機は、冷戦以降、最高に高まっています。
今回は、日本の安全保障にも係わる非常に重要なテーマと考え、マスコミも報じないウクライナ情勢を紐解きながら、その上で日本はどうすべきかについて、3回に分けて論じて参ります。
◆米露対立の危機
ロシアがウクライナとの国境付近に10万人とも12万人とも言われる軍隊を駐留させましたが、アメリカは、「もしウクライナが攻撃された場合には「前例のない」制裁を科す」とロシアに通告し、バイデン大統領の指示で、東欧に3000人規模の軍隊を派遣することを決めました。
日本のメディアは欧米メディアを後追いしてか、もっぱらプーチン氏を「侵略者」のように報道しています。
今回は、プーチン大統領の言い分には正当性があるのかないのか、バイデン氏の判断に乗ってしまうことはどうなのかを考えます。
◆プーチン大統領「軍事作戦を取りたくはない」
まず、事実関係を見ておきます。
昨年10月ごろから、ロシアがウクライナ国境沿いに軍隊を終結していました。
プーチン大統領は、年末恒例の記者会見で、ウクライナを侵攻に関する記者の質問に対して、「向こう(西側)が我々の国境に迫ったのだ!」と激しく否定しました。
プーチン大統領は、「アメリカやイギリスの国境に(ロシアが)迫っているのではない」そして、1990年代以降、相次ぐ「東方拡大」がロシアに脅威を与えてきた」のだと批判したわけです。
プーチン大統領は「ボールはコートのそちら側(NATOの側)にある」「何らかの返答を行うべきだ」と話しています。そしてプーチン大統領は、「軍事作戦を取りたくはない」とも発言しました。
しかし、ホワイトハウスは、ロシアが提示したNATOへの要求への返答を拒否し、プーチン大統領は「ロシアの主要な懸念は無視された」と、強い不満を述べました。
そこで、プーチン大統領の主張を見てみましょう。
(1)プーチンの主張:「NATOの東方不拡大」
◆大戦後、NATO加盟国が東方に拡大
一点目は、プーチン氏の「NATOの東方不拡大」を求める主張です。
NATOとは「北大西洋条約機構」の略称であり、現在、北米や欧州諸国の30カ国が加盟しています。
第二次大戦後、ソ連や東側諸国を仮想敵国として創設された「軍事同盟」であり、加盟国が攻撃されたら、他の加盟国には参戦する義務が発生します。
1949年の創設時、加盟国は12カ国でしたが、米ソ冷戦中には、ギリシャ、トルコ、西ドイツ、スペインが加盟し、16カ国になりました。
1989年にベルリンの壁が崩壊して、1990年に統一ドイツがNATOに加盟します。
その後、東欧の国々が民主化を果たし、1991年の「ワルシャワ条約機構」解体、ソビエト連邦の崩壊もあって、一気に加盟国が増加しました。
これを、「NATOの東方拡大」と言います。
◆「NATOは東方に拡大しない」という約束
これに対して、プーチン氏が「NATOの東方不拡大」を主張しているのには、根拠があります。
冷戦後、東西ドイツが統一されるにあたり、東西両陣営の間で「NATOは東方に拡大しない」という約束をしたというのです。
「にもかかわらず、一方的に反故にされた」と、これをプーチン氏は繰り返し主張しています。ベルリンの壁に変わる、新たな分断線を作っているのはNATOだという話です。
このプーチン氏の主張を裏付けるのが、1990年2月、ソ連のゴルバチョフソ連書記長と、アメリカのベーカー国務長官との会談です。
当時、西ドイツはNATOの加盟国でしたが、東ドイツは加盟していませんでした。
ベーカー国務長官や西ドイツのコール首相は「東西ドイツを併せた『統一ドイツ』がNATO加盟国として止まれるなら、NATO軍は1インチたりとも東方に拡大することはないとゴルバチョフ氏に話しています。
これがプーチン氏の主張の根拠になっています。
◆NATOの言い分
これに対して、NATOの言い分は違います。
2014年4月に「当時の東方とは、東ドイツを意味しているのであって、東欧諸国にNATO加盟国を拡大するかどうかを議論した覚えはない」と発表し、ロシアの主張を否定しました。
現在のアメリカのスタンスは、この公式発表を踏襲しています。
このように、両者の見解が分かれていますが、東西ドイツ統一の偉業を成し遂げるために、ソ連の了承を得るために、ゴルバチョフ氏と「口約束」をした可能性は否定できません。
ゴルバチョフ氏は「約束があった」と言い、プーチン大統領は、ゴルバチョフ氏が、この時の約束を文書化しなかったことを今でも大変後悔しています。
なお、ドイツの『シュピーゲル』誌は、詳細な調査を踏まえ、事実上約束があったとの見解を出しています。
また、1993年エリツィン大統領と、アメリカのクリストファー国務長官会談の際に、クリストファー長官が「東欧諸国のNATO加盟は認めない」と言って、翌年、クリントン大統領が手のひらを返して「NATO拡大」の考えをエリツィンに伝えてきたことがありました。
◆ロシアがウクライナを譲れない理由
エリツィンは「NATO加盟国をロシアの国境まで広げることは重大な間違い」と強く主張し、NATO加盟国との間に緩衝地帯を確保することは「譲れない一線」だとしました。
こういうところも、今に続くロシアの不信感につながっているところです。
ロシアの歴史の中で、ナポレオンやヒトラーがロシアに攻めてきた時、豪雪と凍結をもたらす「冬将軍」が敵国から守ったのは有名な話ですが、勝てたのはウクライナという緩衝地帯があったからです。
ウクライナはNATO加盟国であるポーランドやルーマニアとロシアの間に位置しています。
もしウクライナがNATOに加盟したら、モスクワからわずか870キロのキエフに敵軍が布陣することが可能になり、戦車でも片道10日ほどで到着でき、容易にモスクワを攻撃できるようになります。
◆ウクライナのNATO加盟は「レッドライン」
緩衝地帯と不凍港を持つことは、ロシアの安全保障にとっては死活的なのだということを理解するべきでしょう。
昨年12月、プーチン大統領は「ウクライナにNATOのミサイルが配備されたら、モスクワを数分以内に攻撃できるので、これは容認できない。ウクライナはロシアへの玄関口だ」と話しています。
ロシアは安全保障上、ウクライナのNATO加盟を「レッドライン」と見て、警戒しているわけです。
そもそもソ連が崩壊したので、ロシアはもはやNATOの敵ではありません。それなのになぜロシアを排除した政治軍事同盟が必要なのか?と問うているわけです。
こうした過去の経緯を見ると、プーチン大統領が「NATOの東方不拡大」を主張し、拘束力を持った正式な条約を文書として残したいと固執することは、理解はできます。
(第2回に、つづく)