ベーシック・インカムは「亡国への道」
https://info.hr-party.jp/2021/12065/
幸福実現党政務調査会ニューズレターNo.26
◆ベーシック・インカムとは何か
ベーシック・インカム(BI; Basic Income)とは、すべての国民に対して、最低限の生活を送るために、一定額のお金を給付する制度のことを言います。
同制度の導入の際は、基礎年金や生活保護などはBIに一元化するのが一般的です。
政府は昨年、国民一人10万円の特別定額給付金を支給しましたが、BIは、この給付金が毎月支払われるようなイメージだと言えます。
最近は特に、コロナ禍にあることや自然災害の多発により、BI導入の機運が高まりつつあり、日本維新の会や国民民主党は、BIを次期衆院選の公約に掲げることを既に表明しています。
国外では、フィンランドで2017年から2018年にまで失業者の一部を対象とする実証実験が行われたほか、2020年にはスペインで低所得世帯を対象とする現金給付制度が導入されるなど、幾つかの事例があります(※1) 。
BIを導入すべきとの論調は、経済的左派のほか、竹中平蔵氏をはじめとする新自由主義者(ネオリベラリスト)の一部も、BIについて積極論を唱えています。
両者には、「社会保障を充実させるべき」「社会保障をより簡素化すべき」といった立脚点の違いがあります(※2)。
果たして、BIの導入は是と言えるのでしょうか。以下、実現可能性と哲学の面から議論を進めます。
◆ ベーシック・インカムの実現可能性
BIを日本に導入することは財政上、実現可能なのでしょうか。
BIの「給付額」をどのように設定するかについて、論者により様々唱えられていますが、ここでは、国民に一律、年齢に関係なく毎月10万円給付する場合を考えます。
これを成り立たせるために一年間で必要となる予算は、単純計算で、(10万円×12カ月×1億2,000万人)=144兆円となり、2020年度の国家予算、約102兆円(当初予算)を凌ぐ規模感になることがわかります。
BIを導入する際には、基礎年金や生活保護のほか、所得税の各種の控除をBIに整理し、これらを廃止することが可能となります。
鈴木亘氏の試算を用いれば、基礎年金、生活保護費(生活扶助分+住宅扶助分)のほか、所得税にかかる控除分などをカットすることができ、その額は99.5兆円とされます(※3)。
しかし、これでも、BIを導入するときにかかる費用の全てを賄えるわけではなく、44.5兆円もの新たな予算が必要となります。
結局のところ、BIを導入する場合は、大幅な増税策を実施する必要が生じます。
所得税の累進課税強化や法人税の引き上げなど、巨額の財源を確保するには様々な方法があると考えられますが、例えば、消費税の増税でその44.5 兆円分の財源を確保するとなれば、軽減税率を廃止したうえで消費税率を31%にする必要があります。
いずれにしても、BIの導入で国民は結局、大きな負担を強いられることになります。また、今の財政状況を見れば、国債発行を財源にすることも到底考えられません。
尚、日本維新の会は、「日本大改革プラン」の中で、0歳から全国民に対し、月額6万円~10万円を一律給付するとし、その必要財源は約100兆円になるとしています。
しかし、働きたくても働けない人が給付額以上のお金が必要となった場合には、結局のところ、追加分の給付が必要になるとも考えられます。
また、同党は、BIについて、「格差解消のための再分配政策を強化する点で効果的」とし、新たな社会保障の実現に向けて、固定資産税の強化など、資産課税の大幅な強化の必要性を示唆しています(※4)。
確かに、BIを導入して、生活保護制度を無くして資力調査(ミーンズテスト)を不要にするなどして、現今の社会保障制度の維持に伴う行政費用は今より少なく済む部分もあるかもしれません。
しかし、今まで生活保護を受けていなかった人も給付を受けるケースが出るなどして、制度設計次第では歳出が大幅に膨らむことになると言えます。
BIはバラマキ・増税の典型と言ってよく、これを進めた場合は、日本は一層、「大きな政府」へと舵を切ることになります。
尚、今の生活保護制度には「貧困の罠(※5)」が存在し、BIはその解消策になるとされていますが、先述の通り、これは財政的に見ても実現可能とは言えません。
そのため、これについては別途、生活保護者の勤労意欲を減退させないような制度に変更する必要があります。
◆「働かざる者食うべからず」が人間の基本
様々な理由により、働きたくても働けない人に対して一定のセーフティネットを設けることは、政府の役割と言えます。
しかし、「働けるのに働かない人」にもお金が配られることは本来、是認されるべきではありませんし、富裕層に対しても一律に給付がなされることは愚の骨頂と言えます。
何もせずとも、一定の所得が確保されるのであれば、全く働かないという人が一定の割合で現れてくることでしょう。
結局のところ、BIを実現するとなれば、富裕層をはじめとする、一定以上の所得を持つ人が「大増税」措置を受けて所得は差し引きでマイナスとなり、こうした所得層は、以前より可処分所得が減りかねません。
豊かな人から富を奪い取ってそれをばら撒けば、国全体は「結果平等」の世界へと近づき、誰も努力したり知恵を絞らなくなり、「貧しさの平等」だけが広がります。
また、BIが「無条件」でどの国民にも配られるとしたら、子育てへの責任感を有することなく、「お金欲しさ」に子供を産むという、恐ろしいケースが生じることも否定できません。
個人も国家も、経済発展の礎は「勤勉の精神」であり、「働かざる者食うべからず」というのが大原則であるはずです。
マックス・ウェーバーが資本主義の精神を分析したように、「禁欲や節制をし、勤勉の精神を発揮してお金を貯め、事業に成功することで、神の栄光を地上に現し、世の中を繁栄させる」者こそ、神様から祝福される人間なのです(※6)。
かつて「ゆりかごから墓場まで」というスローガンを掲げた英国は、サッチャーが首相となるまで、停滞の道を歩むことになりました。
日本もBIを導入して「国家社会主義」型の経済をひた走るようになれば、かつての「英国病」のようにますます停滞の道を歩むことになるでしょう。
「国家が国民を養う」という構図となれば、国民の生殺与奪の権は国家が握ることになります。BIの導入はまさに、国家への「隷従への道」であり、「亡国への道」に他なりません。
(※1)BIについて、厳密にいえば、BIの給付額だけでは生活する上で困難をきたす場合は「部分的BI」、年金など、対象者が限定されるものは、「限定BI」と分類される。海外での他の事例は、「欧州の『ベーシックインカム実験』と公的扶助改革」(2021年7月, 国立国会図書館)など参照。ここでの海外の事例は
(※2)いずれも、「完全なBI」が導入されているわけではないと言える。
井上智洋『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書, 2018年)等参照。
(※3)鈴木亘『社会保障と財政の危機』(2020年,PHP新書)参照。
(※4)大阪維新の会「政策提言 維新八策」「維新八策を具体化する国家ビジョン 日本大改革プラン」等参照。
(※5)現在の生活保護制度は、受給者が働いて給料を得たとしても、手取り額のほとんどが変化しないという体系となっており、勤労意欲を阻害している。「貧困の罠」は、生活保護から抜け出ようという誘因が働いていないことにより、受給者が貧困から脱却できない状況のことを指す。
(※6)大川隆法『マックス・ウェーバー「職業としての学問」「職業としての政治」を語る』(幸福の科学出版)より。
執筆者:webstaff