CO2排出量実質ゼロがもたらす日本の安全保障危機 【後編】
幸福実現党党首 釈量子
◆懸念1 壮大な虚構の上に血税を無駄遣い
前編で述べた「2050年カーボンニュートラル」について懸念される点が2つあります。
第一の懸念は、「血税の壮大な無駄遣い」になるということです。
報道によりますと、政府は、「脱炭素」につながる設備投資減税を検討しています。また、「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)を通して、1兆円の基金を拠出する方向です。
もちろん、こうした産業の活性化につながる可能性もあります。しかし、「温暖化全体主義」による国民の血税を壮大な無駄遣いをすることになります。
また注意したいのが、減税を打ち出すと同時に、二酸化炭素排出に対しては増税も検討していることです。
すでに2020年7月に財務省出身の中井徳太郎氏が、環境省事務次官の就任会見で「炭素税」の必要性に言及しています。
石炭・石油・天然ガスなど化石燃料の二酸化炭素の含有量に応じて課税するというもので、スウェーデン並みに1トン15000円が課税されれば、ガソリン満タン35リットルで約1200円の負担増です。
「炭素税」とは、ガソリンや灯油、電気やガス料金、また輸送コストにかかるので物価が上がり、企業ばかりか個人に直接影響が及びます。増税すれば、コロナ禍の中、景気が冷え込むのは確実です。
◆懸念2 安全保障上の危機
加えて、「脱炭素」を一気に進めれば、日本の安全保障を確実に危険に晒します。
2018年現在の日本の電源構成 比は、LNG火力38%、石炭火力32%、石油火力7%、水力8%、原子力6%、新エネルギー等が9%です。
政府は火力発電を全廃するとは言ってはいないのですが、7月に「非効率な石炭火力発電所の廃止」が報じられました。今後、火力発電、中でも32%を占める石炭火力への風当たりは、ますます厳しくなってくることは確実です。
もともと、石炭は世界中各地に存在するので、地政学的リスクは少なく、熱量当たりの単価も化石燃料の中では最も安いので重宝されてきました。
石炭が駄目ということになれば、当面、LNG(液化天然ガス)への依存度を高めることになります。日本は原発を停止して以来、LNGの輸入が急増し、現在、世界最大の輸入国となっています。
LNGの輸入は、オーストラリアから南シナ海を通ります。中国は10月末の「5中総会」で「戦争に備えた訓練の全面強化」を確認するなど軍事的緊張が高まっており、有事になれば供給が止まります。
太陽光発電や風力発電は、需要に合わせて発電できず、安定供給のためには、調整弁として一定の火力発電を残す必要があります。
ただ火力発電所は稼働率が悪く、経営が成り立たないので、発送電分離や電力自由化を行った国では、再エネの拡大に伴って、採算が合わず火力発電の撤退が起きており、電力系統がガタガタになる懸念もぬぐえません。
さらに安全保障上の危機としてもう一つ、「技術自給率」という問題があります。例えば太陽光パネルはいまや中国製がほとんどです。
IoTの技術が進む今、部品の中にバックドアを仕込まれればサイバー攻撃の対象になる可能性もあります。こうした危険性も考えなければいけないと思います。
◆日本の選択
以上、いくつかの懸念をお伝えしましたが、菅首相は、カーボンニュートラルを目指した莫大な投資によって、経済と環境の好循環が到来するといいます。
しかし、それほど経済効果が期待できるというのならとっくに民間が投資しているはずです。
莫大なコストがかかり、経済的な負担が大きくなるから進んでこなかったのであって、政府が新しい環境規制を増やすことは必ず民間の力を削ぐことになります。
コロナ戦争でアメリカが中国に敗れたような形となり、世界情勢が不安定になる中、やはり大切なことは、「日本として、エネルギー供給を安定させること」です。
もともと日本の電気料金は、先進国の中でも最も高く、中国に工場を置く日本企業が「日本回帰」しようにも、消費税や、高い電気代などで日本に戻ることを躊躇せざるを得ません。
今は、全力で原発の再稼働や新設を進めるべきであり、燃料を繰り返し使う高速増殖炉の研究・実用化の促進も必要です。
長引く不況とコロナ禍であえぐ企業を痛めつけるのをやめ、電力供給量を大幅に増やし、安くて大量の電気を供給することが日本経済の生命線です。
仮説にすぎない「二酸化炭素イコール地球温暖化」論に惑わされることなく、国として何をなすべきかを考えるべきです。