世界に広がる中国発・AI監視社会の魔の手【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆トランプ大統領がTikTok使用を禁止?
日本でも若者に大人気の動画投稿アプリTikTok(ティックトック)ですが、7月上旬、トランプ政権は安全保障上の理由から米国内での使用禁止を発表しました。
8月上旬に、トランプ大統領は運営元の北京字節跳動科技(バイトダンス)に対し、TikTokの国内での事業を米国企業に売却することを命じる大統領令を発令し、45日以内に売却できなければ、米国内の事業展開を禁止すると強気の姿勢を示しています。
今回、アメリカ政府が「安全保障上の理由」を挙げた背景には、TikTokがユーザーのスマホの識別番号を無断収集して、利用者の位置やアドレス、検索履歴等、個人情報が中国政府に流出する懸念があったためです。
◆AIの技術進歩が生む中国の監視社会
TikTok は、AIによる顔認証など、ユーザーの好みに合わせたコンテンツが「勝手にどんどん出てくる」状態を作ることで、TikTokにハマったユーザー情報がAI技術で盗まれるというカラクリです。
TikTokだけではなく、中国AIベンチャーの技術進歩は目覚ましく、メグビー(Megvii)社は、顔認証だけでなく、服装・髪型や、どういう行動をしたかという「動態認識」もデータとして蓄積でき、新疆ウイグル自治区での弾圧に、実際に活用されていると言われています。
既にメグビー(Megvii)社が持つ顔認識プラットフォーム「Face++」は、既に日本市場に進出を果たしており、末恐ろしいものがあります。
◆中国14億人を監視する3つの手法
では、中国共産党政権は、中国人全14億人を、どのように「監視」しているのか。3つの視点から見てみたいと思います。
(1)カメラによる「監視」
中国国内の監視カメラの台数は急増の一途を辿っており、今年の年末には、5億7,000万台に達すると見込まれています。これはたった3年で3.3倍以上増加した計算となります。
単なる監視だけでなく、人間の顔や体温などを瞬時に認識できる「AIカメラ」についても、中国では2,000万台以上が設置・導入されていて、「天網工程」(スカイネット)という、AIによる監視システムが中国全土に張り巡らされています。
「天網」は、今年2020年までに中国全土をカバーするとされ、一瞬で顔や服装、年齢、性別、動き、手にしているものなどが認識できます。
(2)検閲による「監視」
次に検閲による「監視」です。中国では印刷物への検閲はもちろんのこと、AIを駆使したネット検閲もかなり徹底しています。
中国本土においては、GoogleやFB、Twitter、LINEなどには接続出来ないため、基本的に、百度(バイドゥ)や微信(ウィーチャット)と言われる中国国内向けのものを使わざるを得ません。
政府に批判的なコメントをした有名ブロガーや人権派弁護士など影響力のある人物が逮捕されたり、公安警察に呼び出されて、過激な発言をしないよう指導される一般市民も数多くいます。
もっとも、最近はあからさまに削除されることもなく、本人も気づかないうちに検閲され、アルゴリズムで拡散されないよう外されるケースも出ています。
(3)社会信用スコアによる「監視」
特筆すべきなのが、「社会信用スコア」による「監視」です。簡単に言えば、中国社会における民衆それぞれに対する「通信簿」のような仕組みです。
最も有名なのはアリババ・グループが運用する「芝麻信用(ゴマ信用)」です。
当初、金融機関の融資審査に提供するサービスとして始まったのですが、ネット通販履歴や電子決済、資産、ひいてはSNSでの交友関係、学歴等に至るまで、膨大な項目についてAIを活用しそれぞれに総合点が算出されます。
点数は350点~950点と、まるで英語のTOEICのようなスコアで算出され、高得点を獲得すると、例えば自転車や傘、モバイルのバッテリーに至るまで、デポジット(保証金)不要で利用できます。
700点以上でシンガポールビザ、750点以上でルクセンブルクビザが取得できるなど、「国外移動の自由」まで、社会信用スコアによって決定されてしまいます。
微博(ウェイボー)では「陽光信用スコア」というものがあり、書き込みがデマだったり、問題があると減点される一方、中国共産党を礼賛するような書き込みや、他のユーザーの不適切な発言を通報すると持ち点が増える仕組みです。
まさに「密告制度」さながらの仕組みがAIを駆使した中国のネット社会には存在しています。
また、中国ではキャッシュレス社会が進んでいるため、何かあれば、一瞬にしてお金を巻き上げ、血を流さずに、自由を奪う仕組みがあります。
(つづく)