香港国家安全法――ナチス化する中国から香港の自由を守れ【前編】
幸福実現党党首 釈量子
◆香港国家安全法で、「香港の自由」は死んだ
6月30日、中国の全人代常務委員会で「香港国家安全維持法」が全会一致で可決・施行されました。
翌7月1日には早くも「国家安全法」違反で、10人が逮捕、違法集会などの容疑でも約360人が逮捕されています。
香港の代表的な活動家である黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏や周庭(アグネス・チョウ)氏は所属する民主派団体「デモシスト」からの離脱を表明し、すでに香港から脱出した活動家もいます。
「香港の自由」は死んだに等しい状況です。
香港国家安全法の主な内容は、(1)国家分裂、(2)政権転覆、(3)テロ活動、(4)外国勢力との結託を処罰し、最高刑は終身刑です。
4つを犯罪行為としているのですが、いずれも定義があいまいで、「香港独立」旗の所持程度の非暴力的な手段でも逮捕されています。
香港の企業や外国人、香港外の犯罪にも適用され、香港在住の日本人や企業も対象に含まれます。
中国が国家安全維持公署を設置し、中国政府の出先機関として、「秘密警察」のような役割を担うと報道されています。
捜査では、通信傍受や盗聴が可能となり、捜査を名目に、監視・尾行・盗聴などやりたい放題です。
学校、メディア、インターネットなどの監督・管理も強化され、中国に批判的な書き込みや報道がなくなる恐れがあります。
また、国家安全の罪で有罪判決を受けた者は、選挙に立候補できません。これは9月に行われる「香港立法会選挙」に向けた布石と言われています。
香港国家安全維持法は香港の他の法律よりも優先され、個人の自由や人権よりも、中国共産党が理想とする社会の安全を優先することになります。
◆香港の今後
この法律施行によって、香港は、どのようになるのでしょうか。
人や企業が、他の国へ移転する流れが強くなるのは確実で、すでに台湾や、旧宗主国のイギリスも、移民受け入れを表明しています。
香港に拠点を置く外国企業なども、香港脱出を検討しています。
1992年にアメリカ議会で成立した「米国―香港政策法」で、「中国製品に課している関税を香港には適用しない」といった、優遇措置がとられてきました。
中国は、香港を経由すれば関税がかからないので、製品をまず香港に持ち込み、そして香港から世界各地に再輸出することで、アメリカなどの中国に対する関税を回避することができたのです。
しかし、今回、アメリカが「香港人権民主主義法」などを制定し、当局者への制裁、香港の優遇措置が見直されることになり、「特別な地位」が失われます。
中国が利用してきた抜け道がなくなるということです。
また金融面では、中国は香港の金融市場を利用して外国資金を呼び込んでいました。
例えば、2004年に中国最大のインターネット企業であるテンセント、2018年にはスマホメーカーのシャオミ、2019年にはアリババが香港市場に上場しました。
現在、香港市場に上場している中国関連企業は約420社あり、その時価総額は、1兆5千億米ドルを超え、香港市場全体の3分の1以上を占めています。
今後、香港の金融機関がシンガポールなどに本社機能を移転する動きが加速し、香港の金融センターの機能が弱まれば、中国企業の資金調達は難しくなるでしょう。
さらに、アメリカは今後の制裁案として、香港ドルと米ドルの交換を停止することも検討しています。
このように、中国は「国家安全維持法」によって、香港の貿易・物流センター、金融センターとしての機能を失おうとしています。
コロナショックと相まって、中国経済に与える影響は甚大です。
後編では、中国の「香港国家安全維持法」について、また別の角度から見て参ります。
(つづく)