アラブ諸国で進む対立構造の変化――世界平和と真の国際的正義の実現を(前編)
http://hrp-newsfile.jp/2019/3461/
幸福実現党 広報本部チーフ 西野 晃
◆ローマ法王フランシスコのUAE訪問
2月5日、ローマ・カトリック教会のフランシスコ法王はUAE(アラブ首長国連邦)の首都・アブダビを訪問しました。
カトリックの最高位にあるローマ法王がイスラム教発祥の地であるアラビア半島を訪れるのは史上初めてです。
屋外競技場で開催されたミサには、数千人のイスラム教徒を含む約18万人が動員され、3日間の訪問中にはイスラム教の指導者らとも面会しています。
宗教間会合で行った演説では「どんな形であれ暴力は非難される。我々は宗教が暴力やテロリズムを許すことがないよう注視する必要がある」「特にイエメン・シリア・イラク・リビアに思いを馳せている」と、紛争が続く国などでの一刻も早い戦闘終結を訴えました。
地元メディアも「歴史的な訪問」と歓迎、UAEのムハンマド首長はツイッターで「訪問によって寛容の価値と、宗教間の理解を深めることができる」と指摘しました。
昨年にはイスラエルのネタニヤフ首相がオマーンを公式訪問しています。
UAEやサウジアラビアと良好な関係を持つオマーンは、これらの国々同様イスラエルを敵視してきただけに、この訪問は宗教上の対立構造が変化しつつあることを匂わせます。
◆アラブ諸国内での対立軸の変化――スンニ派とシーア派との抗争
どうやらイスラム教とユダヤ教(そしてキリスト教世界)との宗教対立というものが比較的弱まりつつある一方で、アラブ諸国内での対立抗争の重要度が増しつつあるようです。
中東は現在も様々な対立軸が複雑に絡み合い混迷の最中にあります。
その一つが、イスラム教スンニ派が多数派を占めるサウジアラビアを中心とした勢力と、イスラム教シーア派が多数派を占めるイランを中心とした勢力との対立です。
両者はイスラム教の二大宗派で、世界のイスラム教徒人口のうちスンニ派が約8割、シーア派が1割強を占めています。
「世界最悪の人道危機」と呼ばれるイエメン内戦が両者の代理戦争となっていることは周知の事実です。
少なくともスンニ派陣営にとっては、今回の法王訪問を地域的な影響力拡大のためのツールとして利用しつつ、他宗教の勢力をも味方につけながら、自分たちの正当性を国際社会に向けてアピールしようという思いが透けて見えます。
こうした動きは今後ますます熾烈になっていくでしょう。
サウジアラビアでは、次期国王と目されるムハンマド皇太子が「ビジョン2030」を掲げており、建国以来の大改革に取り組んでいました。
しかし目玉である国有石油会社サウジアラムコの株式上場が中止に追い込まれ、脱石油依存の経済構築という目標は頓挫してしまった感が強くなっています。
皇太子が開始したイエメンへの軍事介入で軍事費は膨らむ一方で、2017年のサウジアラビアの軍事費は694億ドルと世界第3位となっています。
また、強権的手法を多用したことで国内からの資金流出が拡大、王族内で大きな亀裂が生じてしまったとの懸念も指摘されており、ムハンマド皇太子としては何とかしたいところでしょう。
中東・北アフリカ地域では昨年後半から経済状態の悪化に対する抗議運動が広まっています。
中東メディアは2011年に発生した「アラブの春」が再来する可能性を報じており、史上最悪の「石油危機」が起こる可能性も有り得えます。
その状況下で、日本はどのような外交戦略をとるべきか次回述べて参ります。
(つづく)