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宇宙産業ビックバン―日本の経済成長を支える100兆円産業へ【後編】

http://hrp-newsfile.jp/2018/3412/

幸福実現党 広報本部チーフ 西野 晃

◆将来を悲観視する若い研究者たち―研究環境の整備の必要性

日本の経済成長を考える上では、技術力不足・人材不足も課題です。

日本経済新聞の調査では、20代~40代の研究者141人を対象に実施したアンケートで、約8割が「日本の科学技術の競争力が低下した」と回答しました。

同じく、2030年頃の日本の科学技術力の見通しを聞いたところ、約7割が「人材の空洞化が一段と進む」と回答し、将来を悲観視した意見が多数を占めました。

現在、宇宙産業に関わる日本の従業員数は1万人程度、主要ベンチャー企業では合計で260人程度となっています。

一方、大学・大学院の航空宇宙課程からは年間2400人規模の学生が卒業しますが、宇宙産業へ就職する学生は1割未満です。

他産業からの転職組も僅かなため、人材の流動性の低さや最適配置の問題が懸念とされています。

政府は「宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム(S-Matching)」などの開設や、宇宙ビジネスアイデアコンテスト「S-Booster」の開催等を通じて、より多くの研究者・企業・アイデアと投資家とのマッチング・事業化支援を図っており、施策の速やかな実行が望まれます。

日本経済新聞の調査・大学「論文の生産性」で世界トップだったシンガポール・南洋理工大学では、人工知能(AI)やバイオなど戦略分野を明確にし、高給を提示して有力研究者を呼び寄せています。

日本も長期的な視野で研究できる環境や研究者の研究時間が確保出来る環境の整備を進め、外国人技術者やインターン(学生)の活用、宇宙研究の広報活動による人材の呼び込み、大学と企業が連携した職業教育システムの構築にも取り組むべきです。

◆宇宙強国化を進める中国―抑止力となる科学技術力

昨今、国際社会が混迷する中で各国の軍事力が注目される機会も増えてきました。

例えば、中国では2030年までに米国と並ぶ宇宙強国になるという計画を進めており、近年の宇宙進出は目覚ましいものがあります。

2015年には空軍と宇宙開発を統合した空天軍が創設され、中国の宇宙戦略はいよいよ開発段階から実践段階に移行、2016年に中国の宇宙事業60周年を迎えたことを契機に「サイバー空間での軍事的優位を確立するための宇宙戦略」という方針が明らかとなりました。

2020年には火星探査機の打ち上げ、2022年には中国版宇宙ステーションの運用開始まで予定されています。

自民党の宇宙・海洋開発特別委員会は今年、宇宙における安全保障の基本方針を定めた「国家安全保障宇宙戦略」の策定を政府に求める提言案を示しました。

その際、宇宙も含めた軍備を進める中国の脅威などを念頭に、自衛隊の対応能力について、「危機的に不足している」と明記しています。

現在、米国が中国に対して行っている関税発動も、中国への最新技術の流出を防ぐ事が理由の一つとされています。同様に日本の技術者の人材流出も心配されています。

日本の人材流出を防ぎ科学技術力を高める事は、同時に国防にもつながります。中国の軍事的脅威に対する抑止力となるものです。

◆日本は世界の潮流に乗り遅れるな

こういった防衛技術は民間に転用する事によって新たな技術革新を生み出し、産業競争力の強化と経済の活性化にもつながります。

巨大航空機メーカー市場を二分するボーイング社の生産拠点がある米シアトルには、航空宇宙産業クラスターが形成されています。

現在では、ワシントン大学が供給源となって、AIの研究開発で世界最先端のビジネス生態系も形成されつつあります。

このボーイング社は先日、マッハ5で飛行する「極・超音速機」の実用化を目指すと表明しました。世界の主要都市に2~3時間で到達出来るとする、非常に野心的な構想を掲げています。

同様にもう一つの巨大航空機メーカーであるエアバス社の生産拠点がある仏トゥールーズには、フランス国立宇宙研究センターがあります。ここはヨーロッパ各国が共同で設立した欧州宇宙機関(ESA)で中心的な役割を果たしています。

日本も戦略的に宇宙産業を集積させた地域的な取り組みが必要です。例えば特区の活用です。

愛知県や岐阜県、三重県など5県にまたがる地域には、国家戦略総合特区「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」があります。

このエリアは、将来的には東京・名古屋・大阪を結ぶリニア中央新幹線の沿線となる地域で、更なる発展が見込まれます。

岐阜大で航空宇宙産業の人材育成に向けた技術センターを設置する動きもありますが、航空・宇宙産業に特化した大学新設も視野に入れながら、「技術立国・日本」の成長・発展を牽引する宇宙産業エコシステムを構想することも可能でしょう。

その際に人口減少化時代を見据えて、世界中の優秀な外国人技術者を大規模に受け入れられる東海道(東京・名古屋・大阪)メガロポリス新都市計画構想案を検討しても良いかもしれません。

前出のマスク氏は「人類を火星に移住させる」と夢を語り、ベゾス氏も「数百万人が宇宙で暮らし働く時代を創る」とビジョンを掲げます。

日本もこの潮流に乗り遅れてはいけません。世界は今、宇宙産業黎明期の真っ只中にあります。私たちはその宇宙時代の幕開けの瞬間に立ち会おうとしているのです。

(参考)
■竹内一正「世界をつくり変える男 イーロン・マスク」
■石田真康「宇宙ビジネス入門」
■大貫美鈴「宇宙ビジネスの衝撃」
■宇宙産業ビジョン2030について―内閣府
http://www8.cao.go.jp/space/vision/vision.html
■内閣府特命担当大臣記者会見要旨―内閣府
http://www.cao.go.jp/minister/1711_m_matsuyama/index.html#press
■ビジネスの“生態系”がもたらす5つの変化―ハーバード・ビジネス・レビュー
http://www.dhbr.net/articles/-/3493
■宇宙ビジネス投資マッチング・プラットフォーム―内閣府
http://www8.cao.go.jp/space/s-net/s-matching/index.html
■スペース・ニューエコノミー創造ネットワーク―内閣府
http://www8.cao.go.jp/space/s-net/s-net.html
■宇宙イノベーションパートナーシップ―JAXA新事業促進部
(http://aerospacebiz.jaxa.jp/solution/j-sparc/)
■アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区―内閣府地方創生推進事務局
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/sogotoc/toc_ichiran/toc_page/k5_koukuuutyuu.html
■科学技術「競争力低下」8割、若手研究者アンケート、研究時間と予算が不足(ニッポンの革新力)―日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30138080V00C18A5EA2000/
■土壌を鍛えろ(1)日本苦戦、100位内に4校、大学「論文の生産性」、アジア勢と差拡大(ニッポンの革新力)―日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO31313440T00C18A6TJC000/
■防衛省 宇宙統括部門を 「自衛隊の対応力 不足」 自民委が提言案―読売新聞
https://news.infoseek.co.jp/topics/20180426_yol_oyt1t50016/
■ボーイング「極・超音速機」はマッハ5、相次ぐ開発構想―日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33175540Z10C18A7X11000/
■岐阜大で航空宇宙産業の人材育成を―朝日新聞
https://www.asahi.com/articles/CMTW1807202200001.html

西野晃

執筆者:西野晃

幸福実現党 広報本部チーフ

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