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シンガポールとの比較で見える日本医療の問題点

http://hrp-newsfile.jp/2017/3277/

幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治

◆忍び寄る医療保険制度の危機

私たちが診療所や病院で診察を受けると、自己負担は3割です。

残りの7割は保険から支払われるはずなのですが全体としては4割分しか賄えておらず、あとの3割は税金から支払われています。

これが後期高齢者医療制度(75歳以上)になると自己負担は1割で、残りの9割は保険料と税金です。

その保険料も、現役世代が加入する健康保険組合などの拠出金に支えられています。

健康保険組合連合会(健保連)が9月8日に発表した報告によると、2025年には健康保険組合の通常の保険給付支出を、後期高齢者医療制度への拠出金が上回るとの試算です。

この拠出金の負担が大きすぎて、多くの健康保険組合が解散するのではないかという懸念を表明しています。
(健保連「平成28年度健保組合決算見込の概要」より)

健保連はこの報告の中で、拠出金負担の軽減や高齢者医療費の抑制を求めています。

もはや抜本的な改革が不可欠ですが、どうすべきでしょうか。

他国の事例の中にヒントを見つけました。シンガポールです。

◆シンガポールの病院

シンガポールの医療は、日本・欧州型の「社会保障」という考え方ではなく、アメリカ型の「サービス業」として捉えられています。

しかし医療費が高騰しているアメリカとは異なり、安価な医療も存在しています。

シンガポールの医療制度が、ローコストの公立病院と高品質の民間病院の二階建て構造になっているからです。

公立病院は包括医療制度(DPC。治療法ではなく症状で医療費が決まる制度。)であり、過剰医療は皆無ですが、むしろ淡泊すぎる医療が不満にはなっています。

一方の民間病院は、出来高制の自由診療で、競争原理の中でふんだんなサービスがなされています。

なおシンガポール国内の経済格差は大きく、民間病院を利用するのは2割の富裕層で、8割の庶民は公立病院を使っています。

◆シンガポールの医療保険

保険制度にも見るべきものがあります。

国民皆保険ではなく、強制貯蓄制度による積立金(医療については「メディセーブ」口座)の中から、医療費や保険料を賄っています。

(これらの積み立ては、医療、年金、介護、教育、投資など、国が認める用途に限って引き出すことができる。)

医療保険(メディシールド)には、民間保険のような免責金額や生涯支給額上限があります。

基本的な医療支出はメディセーブと自費で賄われており、医療に対する国家支出は低く抑えられています。医療支出が財政赤字の主要因の一つになっている日本とは大違いです。

◆シンガポールの医療の考え方

シンガポール保健省は、「個人責任」「地域互助」「政府による間接的援助」という3方針を明確に打ち出しています。

「自助努力」を基本原理にしていて、「収入に応じた医療を」という考え方です。

また、高齢者ほど自己負担が増えていく制度であるため、高齢者医療は家族が支えています。

「誰にでも平等な医療を」という日本とは大きく異なります。

シンガポールが開発独裁だから成り立つ考え方だという主張もありますが、大赤字を出してまで平等な医療を維持することが本当に正しいのか、考えるべき時でしょう。

◆日本の医療に立ち返ってみると

私たちは、3割負担を良いことに、税金が支える保険診療を使い過ぎているのではないでしょうか。

医療経営の立場では、顧客の負担が3割だけで、残りを保険と税金で補てんしてもらって10割稼げるわけで、こんなおいしい商売はありません。過剰医療にもなるわけです。

保険診療は、使えば使うほど財政赤字が膨らみます。

保険の利用を抑制する動機付けが急務です。

保険を使わなかった人へのキャッシュバックという方法だってあります。

しかし、現政権にはこれが出来ません。

大票田である日本医師会の「ご意向」により、あるいは「忖度」によって、保険診療を減らす改革には手を出せません。これが今の政権与党です。

政権を維持するために、日本の社会保障制度が食い物にされ、このままだと国家が緩やかに滅んでいくわけで、ひとことで言うとシロアリ政権です。

医療分野に、セーフティーネットは残しつつ市場原理を取り入れることは可能です。

公定価格と規制を無くせば、シンガポール同様に、医療が成長産業として国家の発展を牽引してくれるでしょう。

いつまでも特定政党の票田確保のために、防衛費の何倍もの社会保障費が垂れ流される現状にストップをかけようではありませんか。

(参考文献)
「アジアの医療保障制度」井伊雅子編

たなべ 雄治

執筆者:たなべ 雄治

HS政経塾 三期生

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