倒錯した国会論戦の行方
文/幸福実現党・岐阜県本部政調会長 加納有輝彦
◆本格的論戦に入る安全保障法制
政府は14日の臨時閣議で、集団的自衛権の行使容認を含む新たな安全保障法制の関連法案を決定しました。
与党は遅くても26日に審議入りさせ、6月24日までの会期を延長して8月上旬の成立を目指しています。いずれにせよ、今月下旬から与野党の論戦が本格化します。
昨年7月に閣議決定された集団的自衛権の限定的な行使容認の条件である「武力行使の新3要件」については、繰り返し議論がなされてまいりましたが、今後の論戦においても中心論点となる見込みです。
新法制では、他国への攻撃により、日本の存立や国民の権利が根底から覆される明白な危機があるケースを「存立危機事態」とし、このケースでは集団的自衛権を行使できるとされています。
◆想定されるホルムズ海峡の封鎖
想定されるケースの一つとして、ホルムズ海峡が機雷により封鎖される事態があげられます。
わが国に輸入される原油を載せたタンカーの大部分が通過するペルシャ湾のホルムズ海峡が機雷で封鎖された際の国際的な機雷の掃海活動(機雷除去)への参加について、「日本の船舶も含め外国の商船も多数航行する重要な海峡で機雷が敷設され、各国が協力して機雷掃海を行っているなか、その能力に秀でる日本が掃海をできなくていいのか。」安倍首相がしばしば具体例としてあげてきたものです。
当初、ホルムズ海峡が機雷で封鎖されれば、集団的自衛権を発動して自衛隊が機雷掃海にあたると理解される発言を安倍首相は示していました。
しかし、論戦が進む過程で、与党の発言は変化しました。
◆看過できない自民党高村副総裁の恐るべき発言
5月3日のNHKテレビ番組で自民党の高村正彦副総裁は、自衛隊が中東・ホルムズ海峡で、集団的自衛権を使って停戦前に機雷掃海をする条件について「ホルムズ海峡から原油が全く来なくなって、国内で灯油もなくなって、寒冷地で凍死者が続出するというのは、国民の権利が根底から覆される(状況)ではないか」と語りました。
高村氏は「単に経済的理由では駄目だ。原油が3割、5割上がる程度では駄目だ。(新3要件は)かなりしっかりした規定だ」とも語りました。
「我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」とは原油が3割、5割上がる程度では駄目で、寒冷地で凍死者が続出するケースとしたのです。
ホルムズ海峡が封鎖され、灯油がなくなり、寒冷地で凍死者が続出して初めて「武力行使の新3要件」を満たすというこの高村氏の発言は、驚くべき発言です。
昨日のNHK番組では、自民党稲田朋美政調会長も、「餓死者、凍死者の続出」が想定される国民の生命が脅かされるケースの一つと考えられると高村氏より幾分幅をもたせながらも発言しました。
餓死者、凍死者が続出する事態の前には、失業者の続出が想定されます。
我々納税者が、失業し、餓死し、凍死するまで、集団的自衛権は発動されず、ホルムズ海峡の機雷掃海はなされないとは、笑止千万、そのような政府に税金を払う必要性を感じません。
高村氏、稲田氏の発言は、集団的自衛権の限定的行使が、いかに厳しい基準で行われるか、武力行使の新3要件の要件がいかに厳しいものであるか、野党の追及をかわすための、国民生活の現実からかけはなれた詭弁に過ぎません。
◆倒錯した論戦でなく、現実的論戦を
もともと無理のある憲法解釈の変更の矛盾のつじつま合わせのために、国民生活の現実が犠牲になり、国会論戦が机上の空論に終始するなら、これほど馬鹿げた事はありません。
当面の選挙を凌ぐために、憲法改正を前面に掲げることを回避した自公政権の無作為のツケを、多くの国民が餓死、凍死することをもって払わせられるとしたら、もはや国会議員の存在価値はありません。
反対する野党も、自民党の高村氏、稲田氏から、集団的自衛権の限定的行使が事実上不可能であることの言質を取ったと考えるのなら、国民へのこれほどの背信行為はありません。
与党、野党の国会議員の皆様は、どうか、国民が餓死、凍死してでも憲法9条の精神を護るというような馬鹿げた倒錯した論戦に終始されないよう期待をいたします。