「はだしのゲン」騒動を振り返る(後編)
文/幸福実現党・島根県本部副代表 池田健一郎
◆子どもに「誤った歴史観」を植え付ける
前篇で日本図書館協会が2013年8月に「自主的な読書活動」を尊重する観点から、利用制限の再考する内容の要望書を市教委に送付し、結局、同書籍の利用制限が撤回されるに至った問題点を指摘しました。
さらに別の面から検証してみましょう。
この利用制限のもととなった陳情では「子どもに誤った歴史観を植え付ける」という点も理由として挙がっていました。
この「誤った歴史観」かどうかという判断は、本来なら非常に難しいのですが、今回の「はだしのゲン」に限って言えば、この判断は簡単です。なぜなら、同書籍中で、天皇陛下を「戦争犯罪者」であると断言するシーンがあるからです。
また、日本国憲法第99条においては、公務員が憲法を尊重、擁護する義務を負うと明確に規定されています。
この二つの条文を合わせて考えると、憲法を守るべき公務員たる公立小中学校の職員が「天皇は戦争犯罪者だ」などという、憲法1条の趣旨に明確に反することを主張している内容の「はだしのゲン」という書籍を公立の小中学校の図書館に置くことはできない、という結論が導かれます。
国家の最高規範たる憲法にその根拠があるのですから、自殺のマニュアル書であるとか、わいせつな書籍を排除する以上に、その理由は明確です。
◆「検閲」という批判にも当たらない
また、前編で述べた (3)アメリカ合衆国の図書館協会の基準を例として挙げ、今回の「はだしのゲン」利用制限を「目立たない形の検閲」とまで言う、市教委の利用制限に対する批判も当たりません。
最高裁判所の判例によれば、検閲とは「行政権が主体となって、出版物等の表現物の内容を事前に審査し、不適当と認めるものの発表を禁止すること」と定義されています。
皆様ご存じの通り「はだしのゲン」は発表から何十年も経過している書籍であるので「事前に審査し」の要件にまず当てはまりません。
また、利用制限自体、「公立の」「小中学校の図書館」に限定されたものであり、私立学校の図書館に置くことを制限するものではありません。また、普通の町立、私立、県立図書館でも閲覧でき、書店での購入も可能ですから「発表の禁止」にも当たらないことになります。
つまり、(3)「目立たない形の検閲である」という批判も、日本においては当たらないこととなります。
◆国益を考えた「歴史教育」を
協会の要望書の後の内容についても、以上の理由付けで反論が可能です。同要望書にある「学校図書館の自由な利用が歪む」という心配は杞憂です。また、憲法の趣旨に反する内容の書籍であるため「公の秩序」に反するという理由付けも可能です。
念のため繰り返しますが、私立学校や一般の書店、また、町立、市立、県立の図書館などでは置くことも閲覧することも自由であり、今回のような限定された形での利用制限に問題はないと考えます。
税金で運営されている公立の小中学校において「天皇は戦争犯罪者だ」などという書籍を読んで、反日的な歴史観をもった子供たちが育つというのは、笑えない冗談です。
私立学校ならば、どんな歴史観であっても教えることは自由だと思います。しかし、公立の義務教育においては、行政はもう少し、国益を考えて、歴史教育の内容決定において主体性を持つべきなのではないでしょうか。