「地方創生」本部発足――政府は哲学とビジョンを持て
文/HS政経塾第2期卒塾生 川辺賢一
◆政治術としての「地方創生」
今月3日、安倍首相は第2次政権発足後初の内閣改造を行い、なかでも石破茂氏の地方創生担当大臣への就任が注目を集めました。安倍首相自らが「地方創生本部」の本部長となり、アベノミクスの重点課題として「地方重視」が位置付けられました。
そこで「地方創生」の意義について、考えてまいりたいと思います。
都市と地方を巡る問題は歴史的にも国際的にも政治的に非常に重要なテーマとされており、日本だけでなく世界各国において、単なる政策論争を超えて、ときに根深い政治対立を生む原因となっております。
例えば日本においても、戦後政治史上、最大の派閥闘争とされる田中角栄氏と福田赳夫氏との政治闘争、「角福戦争」の背景にも都市と地方を巡る問題がありました。
「裏日本」と言われた日本海側地域の国土開発等、「日本列島改造論」「国土の均衡ある発展」をスローガンに掲げた田中氏に対して、福田氏は政府支出が肥大化しすぎだとして対抗しました。
ところで安倍首相の所属派閥は福田赳夫氏が創設した清和会(現・町村派)です。最近では地方分権改革を掲げた小泉純一郎元首相に象徴されるように、清和会の底流には公共事業費や地方への補助金等を削減して均衡財政主義を採る傾向があるといえます。
一方の石破氏は田中角栄氏の薫陶を受けて育った政治家であり、「おまえが親父の後に出ろ」と田中氏に言われたことが、石破氏が政治への道を歩むきっかけとなったとされます。
通常、大都市優先と地方重視とで政策は両立せず、主張の対立から政権が不安定化し、振り子が右から左へ振れるように政府がつくりかえられるわけですが、今回の内閣改造で安倍政権は田中角栄氏の流れを組む石破氏を地方創生担当相として取り込んでしまいました。
こうした背景を踏まえるならば、内閣改造で重点課題となった「地方創生」は政権の長期安定化を狙った政治術の一環であるといえるでしょう。
◆経済政策としての「地方創生」
それでは「地方創生」に政治術以上の合理的な意義はあるのでしょうか。
地方分権改革を掲げた小泉政権は「ない」という結論を出したのだといえるでしょう。都市への人口集中が本当に問題のあるレベルに達したならば、自然と地方に人口が逆流すると考えたからです。
もしも政治が介入し、高い利益や所得獲得を目指して都市に移ろうとする企業や人口を地方にとどめようとするならば、国民全体の平均的な所得水準の向上を抑えることになってしまう。こうした論法からです。
そもそも近代以降の資本主義経済の発展は土地に縛られない、土地を必要としない経済への移行でした。農地や米が貨幣価値の源泉、基準であった農本主義の時代は土地の所有自体が価値のあることだと考えられましたが、いまや土地は将来収益を生むための数ある資源の一つにすぎません。
経済の成長に伴って「人・もの・金・情報」の集まる都市に企業や人口が流入するのは自然な流れであり、経済的な論理だけで考えるならば、政治が介入にして地方に企業や人口をとどめる意義を見出すのは困難です。
◆「地方創生」の意義は何か
では「地方創生」の合理的意義はどこにあるのでしょうか。
まず第1に国防上の観点からです。かつて尖閣諸島・魚釣島にも250人程度の日本人が生活し、仕事をしておりました。もし、現在も同じ状況であったらならば、尖閣諸島が日本の領土であることなど説明不要の自明の理とされたはずです。
尖閣諸島は特殊な例ですが、地方の過疎化によって地価が下がり、外国人による購入が進めば、国防上の危機が高まります。やがて破たん直前の地方債が外国に買われるようになれば、日本は財政的に分断されます。
第2に快適な暮らしという観点です。
例えば日本の人口はフランスの2倍ですが、日本の国土面積はフランスの1/2、くわえて日本の国土の約2/3は山間部で人が住めません。地方の土地を有効利用できていないことと重なって、日本の地価は異常に高く、サラリーマンは平均1時間半の通期時間を満員電車のなかですごさなければならないのです。
国土の狭い日本では陸海空のインフラ交通網の整備を通じて、国全体を一つの都市圏・経済圏として統合して国土の有効利用を進めていくべきですし、「日本をアジアの首都」として、世界中から人口が集まってくる国を目指すべきです。
◆「地方創生」のカギは「一貫した国土計画」と「単年度予算の廃止」
このように「地方創生」進める上でも、単にお金を地方自治体にばらまけば良いものではなく、国家防衛や国土計画の全体観に調和したものでなければなりません。
そのために政府は一貫した国土計画を持ち、単年度で財政の均衡を図ろうとするのではなく、長期での回収、長期で均衡していくことを目指した財政政策が求められます。
政府はなぜ「地方創生」が必要なのか、その哲学を持つと同時に、一貫したビジョンを持って行っていく必要があります。