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習近平氏訪米のねらい――「新型の大国関係」の意図するもの

中米諸国を歴訪した習近平氏のねらい

中国の習近平国家主席は、6月1日からトリニダード・トバゴ、コスタリカ、メキシコのカリブ海・中米の3カ国を公式に訪問。トリニダード・トバゴではカリブ海諸国9カ国の首脳と会談しています。

カリブ海・中米地域地域は「台湾外交の牙城」とも呼ばれており、台湾との関係が深かったのですが、近年、中国は同地域に数十億ドルのインフラ建設支援を行うなど、急速に影響力を増しています。

中国は「米国の裏庭」と言われる地域での影響力を増すことで、アメリカを牽制する狙いがあるものと見られます。

共産党機関紙「人民日報」系の国際情報紙「環球時報」は、米紙の報道を引き合いに、今回のカリブ海諸国・中米歴訪は、米国の対中封じ込め政策に対する「お返しの意味合いがある」と報じています。(6/4 毎日「習主席・中米歴訪:訪米前に影響力強化」)

旧ソ連が冷戦時代、「アメリカの喉元」にあるキューバへの経済支援を強化し、共産主義陣営に取り込むことに成功しましたが、中国が中米への影響力を増していることに既視感を抱かざるを得ません。

習近平氏訪米のねらい―「新型の大国関係」の意図するもの

中米を歴訪した習近平氏は7日、アメリカのオバマ大統領と就任後初めての会談に臨むため、アメリカに到着しました。

昨年の米大統領再選と中国国家主席の交代後、初めての米中首脳会談は、7日と8日の2日間、パームスプリングス郊外のリゾート施設で行われます。

中国の当局者は昨年12月頃から習主席とオバマ大統領との会談を強く要求しており、米国との「新型の大国関係」を構築することがねらいとのことです。(6/3 ウォール・ストリート・ジャーナル「米中首脳会談、中国側は意欲満々―『新型の大国関係』構築を狙う」)

「新型の大国関係」とは、中国が「大国」として米国と肩を並べたパートナーシップを築き、「米中G2関係」を構築することを意図した言葉です。

その真意としては、中国は「新型の大国関係」を通じて、米国に「中国と対立するのではなく、共存する道を選ぶこと」を求めているのであり、さらに敷衍するならば、「太平洋を米中で東西に分割し、管理しよう」という提案だと言えます。

中国がねらう米中の「核心的利益の相互尊重」

米中外交筋によると、習近平氏訪米の最大の目標は、中国の「核心的利益」を尊重してもらえるよう、オバマ大統領から理解を取りつけることにあります。(6/4 日経「米中、首脳会談へ秘めた真の思惑」)

中国が言う「核心的利益」とは、台湾やチベット、ウイグルなど、「いかなる代償を支払っても(武力行使してでも)守るべき利益」という意味であり、4月26日には、中国外務省の華春瑩報道官が、尖閣諸島も「中国の核心的利益だ」と明言しています。

2011年のオバマ大統領と中国の胡錦濤国家主席(当時)との米中首脳会談では、米中共同声明から胡氏が強く要望していた「相互の核心的利益の尊重」という言葉が消されました。

東シナ海や南シナ海での海洋覇権拡大を狙う中国を警戒する米国が、明記を求めた中国側を押し切った形です。(2011/1/21 産経「米中首脳会談『核心的利益』声明に盛らず」)

本年1月18日には、クリントン米国務長官(当時)が、岸田外相に対して「尖閣諸島の最終的な領有権について米国は特定の立場を取らないが、日本の施政下にあると認識している」「日本の施設権を損なうための一方的な行動はいかなるものにも反対する」と明言しています。

中国が尖閣諸島に対して軍事侵攻を行なっても、日米同盟が発動されれば、中国は不利な状況に置かれます。

そこで、習近平氏は「新しい大国関係」の構築を前面に押し出しつつ、「核心的利益への不介入(=尖閣をめぐる日中対立への不介入)」の言質を取ることがねらいと見られます。

尖閣をめぐる日中激化する中、米中首脳会談の行方に注目すると共に、日本政府は「日米同盟」を基軸とした自由主義国の連携によるアジア・太平洋の秩序形成、「中国包囲網」を強化していくことが急務です。

(文責・政務調査会長 黒川白雲)

黒川 白雲

執筆者:黒川 白雲

前・政務調査会長

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