このエントリーをはてなブックマークに追加

安倍政権の「国家安全保障会議(日本版NSC)」は機能するか?

「日本版NSC」創設へ

政府は5月9日、「国家安全保障会議(いわゆる、日本版NSC=National Security Council)」の創設に関する有識者会議を開きました。

安倍首相は「日本を取り巻く情勢が厳しさを増すなかで、外交・安全保障体制の強化は喫緊の課題だ。NSCを外交・安保政策の司令塔として機能するものにしないといけない」と強調しました。(5/9 日経「首相『日本版NSC、喫緊の課題』」)

第一次安倍政権でも、安倍首相は「日本版NSC法案」を閣議決定しましたが、福田政権はこれを引き継がず、立ち消えになりました。まさしく、「日本版NSC」の創設は「安倍首相の悲願」だと言えます。

日本版NSCでは、北朝鮮や中国を担当する北東アジアや、テロの危険性が増す中東・北アフリカ等の「地域分析官」を配置。「国防戦略」「テロ」「核不拡散」といった機能・テーマ別の分析官も置き、政府一体での情報集約・分析と政策・対処方針を立て、首相の意思決定につなげるとしています。(5/10 産経「日本版NSC、地域・テーマ別で分析官」)

日本版NSCが急がれる背景には、絶え間なく続く中国による日本の領海・領空侵犯や、本年1月に発生したアルジェリアにおける邦人人質事件での情報錯綜に際し、「国家安全保障会議があれば情報が一元化され、混乱せずに済み、事態が悪化することを防ぐことができた」という意見があります。

そのため、情報収集と分析を一元化し、首相の意志決定に寄与するための組織として、日本版NSCが構想されて来ました。

今回は、安倍政権が創設を目指す日本版NSCが果たして機能するのかを考えてみたいと思います。

国家安全保障会議(NSC)とは?

「国家安全保障会議(NSC)」としては、アメリカのNSCが最も有名ですが、その起源は、1902年にイギリスにおいて当時のアーサー・バルフォア首相が創設した「帝国防衛委員会(Committee of Imperial Defence)」であると言われています。

「帝国防衛委員会」は、イギリスの外交と国防を担い、国家安全保障戦略を策定する機関として創設されました。現在は内閣委員会の一つとして国家安全保障会議が創設されています。

アメリカ国家安全保障会議は、1947年の国家安全保障法(National Security Act of 1947)の規定により、イギリスの帝国防衛委員会をモデルとして創設されたもので、アメリカの外交と国防を担う組織として、現在もアメリカの「最高意思決定機関」の一つとされています。

ここから判ることは、「帝国防衛委員会」や「アメリカ国家安全保障会議(NSC)」は、外交や国防のあり方を決める「最高意志決定機関」として存在しているということであり、各省からの情報を一元化するだけの組織ではないということです。

※もちろん、帝国防衛委員会やアメリカ国家安全保障会議にも各省からの情報を一元化する組織体制が整備されています。(帝国防衛委員会には合同情報委員会(Joint Intelligence Committee)、アメリカ国家安全保障会議には国家情報長官(Director of National Intelligence)があります。)

日本版NSCを機能させるために

すなわち、国家安全保障会議(NSC)に求められる本来の役割は、国家安全保障戦略を立案する最高意思決定機関であるということです。

しかし、現在のところ、安倍政権の日本版NSC構想には、そうした役割は固まっておらず、「情報の一元化」や「NSCの情報総括機能を担保するため、関係省庁に情報提供を義務付ける」といった枝葉末節の部分のみが先行しています。

実際、日本版NSC創設に関する有識者会議の議事録を見ても、「事務局組織を独立した組織とはせずに、既存の官房副長官補の組織を活かしつつ、彼らを取りまとめて政策案を立案する」「『国家安全保障会議』は、諮問機関か決定機関か、といった議論があるが、諮問機関にしておいた方が、総理が動きやすくて良いのではないか」といった意見が出るなど、NSCの位置づけが官僚によって骨抜きにされている兆候があります。

そのようなNSCでは、中国の挑発行為に毅然とした対応をすることも、アルジェリアの人質事件のような緊急性の高い事件に対処することも不可能です。

NSCは、あらゆる事態を想定し、「日本の国益をいかにして守るか」「そのために日本の国が持つ資源をどのような形で使うのか」といった、日本の中長期的な外交・安保戦略をあらかじめ練り込んでいくべきです。

世界情勢では常に想定外の事件が起きます。戦略を考えておけば、そのようなサプライズから早く立ち直ることができると同時に、日本に有利な状況に持ち込むことができます。

刻一刻と変化していく日本の安全保障環境に即応していくためには、日本版NSCの創設が急がれますが、NSCが機能するためには「各省庁からの寄り合い所帯」ではなく、高い専門性と強力な権限を有した独立した機関を構想していく必要性があります。
(文責・政調会長 黒川白雲)

黒川 白雲

執筆者:黒川 白雲

前・政務調査会長

page top