「生涯現役社会」に向け、規制緩和と減税でパイを増やす発想を!
希望者を65歳まで雇用するよう義務づける「改正高年齢者雇用安定法」施行
本年4月1日より、希望する社員を65歳まで雇用することを企業に義務付ける「改正高年齢者雇用安定法」が施行されました。
2006年4月に施行された「改正高年齢者雇用安定法」は、65歳まで働ける制度を導入するように促すもので、労使協定や就業規則等で定めた基準に合わなければ、希望者であっても再雇用されないこともありました。
今回の改正法では、企業は雇用する社員を選別することはできなくなり、「60歳以降も働きたい」と希望する社員は、原則65歳まで働くことができるようになります(2025年までは経過措置あり)。
ただ、それぞれの事情を考慮することなく、各企業に高齢者雇用を義務付けることは歪みを生みます。
みずほ総合研究所の試算によれば、事実上の定年が65歳になる2025年度には、企業全体で年間の人件費は1.9兆円、約1%程度増加するとのことです。
この数値をベースに計算すると、各産業の利益率を0.1ポイント押し下げるとの試算も出ています。(3/4 日経ビジネス)
しかし、ドラッカーが述べているように「知識労働者をコストではなく資産として遇すること」によって、生産性を高め、人件費増加を補って余りあるだけの利益を上げる道はあります。
実際、多くの企業は高齢者の智慧と経験を活かそうと、様々な工夫を凝らしています。
消費増税を中止し、景気回復を優先せよ!
ただ、企業が雇用を維持・増加しようとする前提として、景気の回復と経済成長が必要です。
その足を引っ張るのが消費増税です。消費増税で景気が悪くなって倒産が増えれば雇用も減ります。
1997年に消費税が3%から5%に引き上げられた際には、それまで3%台だった失業率が、その翌年の98年には4.11%に上がりました。その後も少しずつ上昇し、2001年には5%台になりました。
経済成長の足かせとなる消費増税を阻止し、新産業への投資を行って若い世代に魅力的な職場を与えると共に、高齢者も貴重な戦力とされるような環境作りを急がねばなりません。
労働市場の流動化を進め、「チャンスの平等」を実現せよ!
その上で、長期的には、労働市場の流動化を進めることが重要です。
この度の法改正は、一律に65歳まで雇用し続けることを義務化するものですが、業種によっては高齢者に向かない仕事もあります。
例えば、住宅建材等の運送を手掛けるアルプス運輸建設では、体力や判断力が衰える高齢者にトラックの運転をし続けてもらうことはリスクがあると判断し、新規事業として農業を始め、高齢社員に稲作に従事してもらうことにしています(3/4 日経ビジネス)。
ただ、これは全ての企業ができることではありません。
現在の日本では、正規社員の解雇についての規制が非正規社員に比べて強すぎるため、一度職を失った人、これから社会に出る若者にとって不利な状況が生まれています。
今後、65歳までの雇用が義務付けられるようになれば、ますます正規雇用を控える企業が増えるでしょう。
雇用に関する規制を緩和して労働市場の流動化を進め、転職をしやすくする環境をつくることで、長期的にはチャンスの平等が生まれます。
転職が当然の社会になれば、各自の年齢や経験、体力や技能に応じた職場への道も開けるでしょう。
ドイツでは、一度採用したら解雇はほとんど無理と言われるほど厳しい規制がありましたが、法律を改め、解雇をしやすくしたところ、短期的には失業者が500万人を超えましたが、長期的には雇用の流動性が高まり、企業の活力も高まって失業者が減りました。(2011/8 WEDGE http://wedge.ismedia.jp/articles/-/1422?page=1)
高齢者雇用のパイを増やせ!
さらには、高齢者雇用のパイをいかに増やしていくかを考えるべきです。
介護人材派遣業を営む㈱かい援隊本部は「介護分野の人手不足の問題を元気な高齢者を雇用することで克服したい」という志でスタートしたベンチャー企業です。
このような高齢者雇用を積極的に推し進めようとする企業や、高齢者による起業に対して、投資や税制優遇などの支援を行うことも必要です。
「生涯現役社会」に向けたマインド転換を!
最後には社会全体のマインド転換が必要です。
幸福実現党は「セルフヘルプの精神」に基づいて、老後の生活を政府に依存するのではなく、個人や民間企業の力、家族の助け合いで生計を立てることができる、充実した「生涯現役社会」を目指しています。
その具体的政策として「75歳定年制」を提唱しています。
戦後長らく55~60歳定年が常識だったため、75歳は突拍子もなく聞こえるかもしれませんが、55歳定年が一般的だった1951年に男性60.8歳、女性64.9歳だった平均寿命は、50年間で男性18年、女性20年も伸び、男性78歳、女性84.9歳となりました。
余命を考えれば、「75歳定年」はむしろ自然の流れだと言えるでしょう。(文責・政務調査会部長代理 小川 佳世子)