TPP交渉参加を決断せよ―「TPP」VS「RCEP」で深まる米中対立
「TPP」に対抗する「RCEP」
衆議院が解散されて間もない11月20日、東アジアサミットが行われ、ASEAN諸国によって「地域包括経済連携(RCEP)」の交渉開始が宣言されました。
RCEPとは、現在米国主導で進められるTPPに対抗する意図から作られた経済連携構想です。
これが発効すればASEAN10か国に加えて日本、インド、豪州・ニュージーランド、韓国、中国の16か国・34億人が加わる巨大経済圏ができます。
RCEPの世界GDP におけるシェアは28.4%となり、実現すれば世界GDPシェア38.2%を占めると言われる「環太平洋連携協定(TPP)」に匹敵する規模となります。(参照:富士通総研:金堅敏「オピニオンRCEP VS TPP」)
RCEPとTPPの違い
ここでRCEPとTPPの違いについてみてみたいと思います。
第一点は、ASEANの加盟国です。RCEPではASEAN全加盟国が参加するのに対し、TPPでASEANは推進派と反対派に分裂しています。
シンガポール、ブルネイ、マレーシアなど初期からTPPに加盟する国がある一方、インドネシア・ラオス・ミャンマーのようにTPPと距離を置く国もあります。
TPPを推進すれば、分裂状態となったASEANはアジアでの経済統合における主導権を失ってしまう懸念があります。こうした懸念からASEAN主導のRCEPの交渉が開始されました。
違いの第二点は、主導国と排除される国です。米国の主導するTPPは中国をその内に含みませんが、RCEPは逆に中国が主導し、米国を除外しています。これは第三点とも関係があります。
第三点は、原則とする市場ルールです。TPP・RCEP共に、まず経済小国がグループを結成し、後に米中の大国が利用価値を見出したものですが、TPPが関税等の「例外なき自由化」を目指しているのに対して、RCEPは、関税等の例外を「参加国の特殊かつ多様な事情を考慮しながら」推進する方針です。
TPPの「例外なき自由化」によって不利益を被る農協などは、RCEPを望むと考えられます。
カギを握るのは日本-「TPP重視」を打ち出せ
TPPは「多国間交渉」で「複数のイシュー」を扱うことから、合意を見るのはそう簡単ではありません。
しかし目先の利益につられてTPPを投げ出すようなことがあってはなりません。
TPPにせよ、RCEPにせよ、米中がアジア経済圏の主導権を奪い合う構図になっている事は間違いありません。そんな中、重要な役割を担うのが日本です。
TPP・RCEPにおける日本のGDPシェアを見てみると、RCEPでは参加国のGDPシェア29%を日本が占め、中国に次いで2位です。日中を足せば66%となります。
一方、TPPでの日本のGDPシェアは24%と言われ、米国と合わせれば9割を超えます。
米中共に日本の協力なくしてアジアの経済圏を抑える事などできないのは明らかです。これは裏を返せば、日本は行動次第で大きなアドバンテージを得ることができることを意味しています。
その際、肝心なのが「国益」という観点から見た「優先順位の決定」であり、「価値判断」です。
野田首相はTPPを日中韓FTAなどと同時並行的に進める方針を明らかにしましたが、日米関係を軸として、「TPP重視」を明確に打ち出すべきです。何もないまま日中韓FTAやRCEPに臨んでも足元を見られるだけです。
「中国経済圏入り」のリスクを直視し、日本企業の知財を守れ
それだけではありません。日本経済が、中国の主導する経済圏に組み込まれるリスクも考えなければなりません。
中国大陸に進出した日本企業は、反日デモによる破壊行為は言うに及ばず、新幹線やブランドなど技術や商標登録など知的財産を巡るトラブルは後を絶ちません。このような知的財産の侵害に関わる被害額は、年間10兆円とも言われます。
TPPはこのような知的財産を巡るトラブル対策としての側面があります。
日本企業の競争力を維持するほか、先端技術の盗用・軍事転用を防ぐうえでも、知財保護を盛り込んだTPPを成功させる意義は大きい。
目先の利益につられるのではなく、日本が先頭に立って、高度なビジネスを行う環境を国際社会に創造していくことが重要です。
(文責・HS政経塾一期生 彦川だいし)