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TPPと農業問題

消費税増税法案以外ははっきりと結論を下せない野田首相。

今週末ロシアのウラジオストクで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でTPP(環太平洋経済連携協定)参加表明を見送ることが決まったのが8月29日。表向きは参加に対して詳細が煮詰まっていないとされていますが、党内を中心とした反対勢力を融和するのが狙いだと考えられます。

TPPは農業問題だけではなく、国際貿易と法律論、環境問題、労働問題など幅広い論点が網羅されています。ただ、一言で言えば、TPPを通じてアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)と呼ばれる広域の自由貿易圏を創設することが最大の狙いです。2010年横浜APECでは、FTAAP実現に向けた方向性が改めて確認されました。

さて、HRPニュースファイルではTPP問題に関して、「デフレとの関連」「ISD条項」「医療制度」「知的財産権」問題を扱ってきましたが、今回は農業問題を取り上げます。

TPPに参加すると農業が壊滅するという意見があります。

農林水産省の試算では、関税や輸入課徴金の撤廃により農業生産額8.5兆円のうち4.1兆円(そのうち米は2兆円)減少するとされます。また、食料自給率は40%から14%に低下するため、食糧安全保障上問題があるとします(2011年度は39%)。あくまでも政府が対策を施さない場合の試算であるため鵜呑みはできませんが、国民に与える印象は強いものがあります。

食料自給率はカロリーベースで表示されており、1960年頃には約80%あったものが、50年後には半分にまで低下しました。

『TPP興国論』の著者である松田学氏によれば、日本人の食生活が洋風化したことを指摘しています。米や野菜中心の食生活から肉食に変わることで家畜のエサとなる穀物の輸入が増えます。この値はカロリー自給率から差し引かれます。既に、飼料用の穀物の輸入関税は低くなっているため、自給率を下げる要因になっているわけです(104p)。

実は、カロリーベースの食料自給率は日本の農水省が編み出した統計であり、他国では採用していません。本来ならば生産額の自給率を使用するのが筋ですが、対応する日本の値は66%になります!→農水省のHP参照

韓国でもカロリーベースとしての自給率は使用していますが、日本のように「食糧安全保障」という国策としては使用していません。

この点を鋭く指摘しているのが月刊雑誌「農業経営者」副編集長の浅川芳裕氏です。同氏は、カロリーベースの自給率の計算根拠を農水省に問いただしたところ、「食糧安全保障上の機密上」出せないと返答されたようです。

その裏には、農水省が日本の農業が弱いという印象を植え付け、保護を正当化している意図を感じざるを得ません。→http://bit.ly/OabdLI

そして、日本の農業問題を議論するには米の減反政策に触れざるを得ません。

1970年以降から継続している減反政策により、減反面積は水田全体の約4割強にあたる100万ヘクタールにも達しました。加えて、供給を制限したことで米価は高くなっています。

『農業ビックバンの経済学』の著書である山下一仁氏によれば、減反対策で年間約2千億円、累計約7兆円の補助金が拠出されている点を指摘しています(120p参照)。

減反をやめて増産すれば、それだけで米価は下がります。加えて、余剰米は輸出にまわすこともできます。さすれば、食糧自給率向上にも有利になると思われるのですが、減反政策を撤回する方針は今のところ出ていません。

一方、世界的にも悪名高い米の関税率は778%。その代償として、日本政府は国内消費量8%にあたる77万トンの米を輸入する「ミニマムアクセス」が課されています。主な使用目的は海外への食糧援助。1万トン当たりの保管料は約1億円ですので77億円の税金が使われている計算です。過去の在庫量を入れた累計額は500億円以上にのぼります。

要するに、国民は高い米の価格だけではなく、米の保管料にも税負担を強いられているわけです。

こうした愚かな政策をするくらいなら、減反の廃止とTPP参加による関税撤廃に向けた交渉をしていく方がよほど健全です。

日本の世界5位の農業大国です。

神戸牛や松坂牛のように、海外でも売れる商品もあります。日本の農産物の品質は高く評価されており、今後も数多くの農産品を輸出商品へと変えることは夢物語ではありません。

巷間では、耕作放棄地や農業従事者の高齢化と跡継ぎ問題などがクローズアップされており、衰退産業の代名詞のように扱われていますが、議論のほとんどは農業の保護です。

むしろ今必要なのは、浅川氏が別の論文で述べているように、農業の経営黒字化のインセンティブを働かせることにあります。そのためには、競争原理を導入して補助金漬けの体質を改善する必要がありますが、TPPがその端緒となります。→http://bit.ly/PZY4mV 

TPPには、全参加国の同意と約10年間の協議期間が許されているのですから、過度に恐れる必要はありません。

幸福実現党としても、「日本の農業は弱い」という農業版自虐史観を脱却し、減反などの社会主義的な政府介入を撤廃していくことが不可欠だと考えます。そして、「強い農業」を実現するためにも、TPPを通じて市場競争を強めていく中に、日本農業の再生への道があると考える次第です。
(文責:中野雄太)

中野 雄太

執筆者:中野 雄太

幸福実現党 静岡県本部幹事長

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