「日の丸半導体」の凋落――「科学技術立国・日本」復活への道
7月27日、富士通は半導体を生産する主力の三重工場を台湾企業に売却する方向で交渉を始めました。(7/27 日経「富士通、半導体の三重工場を売却 台湾社と交渉 」)
富士通は半導体製造部門を切り離し、ルネサスエレクトロニクス、パナソニックとシステムLSI事業を統合。統合新会社は半導体の設計開発に特化し、生産は外部企業に委託する予定です。
また、7月2日には、アメリカの半導体大手マイクロン・テクノロジーが、日本の半導体大手で、今年2月に会社更生法の適用を申請した「エルピーダメモリ」を買収すると発表しました。
その結果、世界のDRAM(記憶用半導体)業界は、業界首位の韓国のサムスン電子、2位の韓国のSKハイニックス、米マイクロンという3大メーカーが9割を占める状況となりました。(7/4 ロイター)
「エルピーダメモリ」は、経産省が旗振り役となった「国策企業」で、1999年に日立とNECの半導体製造部門が統合され、2003年に三菱電機の当該部門を吸収した日本唯一のDRAM専業メーカーでしたが、今年2月、業績不振を理由に会社更生法を申請していました。
政府は2009年に産活法を初適用してエルピーダに公的資金を投入しましたが、結局、再建に失敗。国費を投入した「日の丸半導体」企業が外資に買収されることは、日本国民として内心忸怩たるものがあります。
同じく7月2日、経営不振に陥っている日本の半導体大手「ルネサスエレクトロニクス」は、国内19半導体工場のうち、11カ所を3年以内に閉鎖や売却して整理する方針を発表。一部工場は世界最大手の台湾TSMCに売却する方針です。(7/2 ロイター)
「ルネサスエレクトロニクス」はNEC、日立製作所、三菱電機の半導体事業を設立母体とし、各地に分散している3社の工場をそのまま引き継ぎ、十分な整理統合を進めて来ませんでした。
1980年代、「日の丸半導体」は世界市場で80%のシェアを席巻し、「世界の工場」と謳われ、世界の半導体市場を制覇した「黄金期」を迎えていました。
1990年、半導体売上高の世界シェアは、NEC、東芝、モトローラ、日立製作所の順で、日本のトップ3社で、世界シェアの約3割を占めていましたが、90年代半ばから、韓国と台湾のメーカーの急速な追い上げを受けました。
現在の半導体トップ3社は、インテル、サムスン電子、テキサスインスツルメントで、この3社で、世界シェアの約3割を占めています。(2011/12/6 EE Times Japan「2011年の世界半導体売上高ランキング」)
政府は1996年から5年毎に「科学技術基本計画」を策定。第一期(1996年~)では政府研究開発投資は5年間で17兆円、第二期(2001年~)では同24兆円、第三期(2006年~)では同25兆円を投下。第四期(2011年~)では同25兆円を投資予定です。⇒http://www.jst.go.jp/tt/pamph/tt20120202-2.pdf
自民党政権時代から、政府は「科学立国・日本」の復活をかけ、1996年から15年間で計66兆円の政府研究開発投資を行って来ました。
年間では防衛費と同じく、GDP1%相当の投資がなされ、半導体分野にも多額の投資がなされて来ましたが、成果は必ずしも出ていません。政府は研究開発の投資対象を再検討すべきです。
2011年に閣議決定された「第4期科学技術基本計画」では「震災からの復興、再生の実現」「グリーンイノベーションの推進」「ライフイノベーションの推進」「科学技術イノベーションの推進に向けたシステム改革 」が柱として掲げられています。⇒http://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/4honbun.pdf
しかし、今計画で力点が置かれている「再生可能エネルギー」は、例えば、太陽光パネルでは、安値で世界市場を席巻する中国系企業に太刀打ちすることは容易ではありません。既にドイツやアメリカでも太陽光パネルメーカーが相次いで破産、撤退しています。
グローバル社会の競争の中で日本が生き残る道は、今後とも「科学技術立国」しかありません。
科学技術分野への投資は今後とも積極的に推進すべきですが、投資対象分野は、日本の生き残りを懸け、戦略的重点化(投資対象分野の選択と集中)を図るべきです。
幸福実現党は、交通革命、航空・宇宙産業、防衛産業、ロボット産業等の科学技術で世界をリードする政策を掲げています。
政府も「科学技術イノベーション」を掲げるのであれば、新興国とコスト競争を行なっているような分野にではなく、21世紀の潮流を予測し、「新時代のフロントランナー」となり得る未来産業分野に思い切った戦略的投資をなすべきです。
(文責・黒川白雲)