国家戦略室「日本再生戦略(案)」を検証する
消費増税関連法が7月11日より参議院での審議が開始され、同日、消費増税導入の最終判断を決する「景気条項」への対処として「日本再生戦略(案)」が政府で審議され、月内にも閣議決定され、予算編成に反映される見通しです。⇒http://www.npu.go.jp/policy/policy04/pdf/20120711/shiryo4.pdf
「日本再生戦略(案)」では、100兆円の新規市場と480万人の雇用創出を目指し、2020年度までの経済成長率を名目3%、実質2%に高めることを謳っています。
これが実現すれば、日本経済は上向きますが、「日本再生戦略(案)」は果たして本物と言えるでしょうか?
産経新聞は「再生戦略は、22年6月に菅直人内閣が策定した『新成長戦略』を焼き直した項目も多い。新成長戦略自体、376項目のうち、成果の出ていない政策が約9割に上っている」と酷評しています。(7/10 産経)
それでは「日本再生戦略(案)」について、主要な3論点について見てみたいと思います。
(1) グリーン成長戦略
同戦略では「グリーン成長戦略」として、2020年までの目標として、50兆円超の環境関連新規市場、140万人の環境分野の新規雇用を掲げています。
その中でも、「政策資源を総動員して国民の省エネルギー、再生可能エネルギーの導入を力強く支援していく」と、再生可能エネルギー分野の振興を目指しています。
しかし、再生可能エネルギー分野においては、我が国の産業は競争優位を有していません。
例えば、再生可能エネルギーの中核となる太陽電池パネルは「日本のお家芸」のように思われていますが、実際には、2010年の太陽電池セル生産では、シャープは世界シェアの7%、京セラは6%に過ぎません。
一方、2010年の太陽電池セル生産では中国勢4社は合計51%、台湾を含めると65%ものシェアを占めており、技術競争の時代が終わり、熾烈なコスト競争の時代に入っています。日本が競争優位を得ることは難しい分野です。
むしろ、安全保障の観点も含めて、イラクに匹敵する石油埋蔵量を持つ尖閣諸島の油田開発を実現することで、国内における年間石油消費量10兆円規模となる石油を採掘し、国の収益とするような大胆なエネルギー政策を打ち出すべきです。
(2) ライフ成長戦略
次に、同戦略では「ライフ成長戦略」として、2020年までの目標として、医療・介護・健康関連サービスの需要に見合った産業育成と雇用の創出として、新市場約50兆円、新規雇用284万人を掲げています。
しかし、学習院大学・鈴木亘教授は「医療・介護産業は、多額の公費投入による価格ディスカウントでかろうじて支えられている産業であり、自律的な成長が期待できる分野ではない。 医療・介護費を増やせば自動的に多額の財政支出増となることを考えれば、これは成長戦略というより、一時的な財政政策に近いものと見るべき。」(『社会保障の不都合な真実』P.207~)と指摘しています。
社会保障に関連して、日本再生戦略を実現していく財源として、年金積立金管理運用独立行政法人等の公的マネー(H23年度末時点で、運用資産額:約113兆円、収益額:約2兆6千億円)が出て来ています。しかし、国民資産を運用して財源とするならば、復興増税や消費増税もすべきではありまえん。
鈴木亘教授が指摘するように「多額の公費投入が必要」で、「自律的な成長」が期待できない分野への資金投入は非効率を生み出すのみです。
但し、高齢化は今後とも進展していくため、幸福実現党が提言しているように、医療・介護・健康関連における参入規制の緩和・撤廃、市場原理の導入と競争の促進、価格の自由化、民営化の促進等の構造改革を進めるならば、成長産業になる可能性はあります。
(3) アジア太平洋経済戦略
「アジア太平洋経済戦略」として、2020年までの目標として、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)の構築、ヒト・モノ・カネの流れ倍増、EPAカバー率80%程度、パッケージ型インフラ海外展開による市場規模19.7兆円を掲げています。
しかし、経済連携協定の拡大を見ても、締結国との貿易割合を80%まで引き上げるのは、TPPを実行しないと達成できない数値です。しかし、TPPは交渉参加表明で他国に出遅れ、民主党内の反対意見も根強くあります。
ベトナムのカーン首席交渉官は「8月末までに意思決定できれば、メキシコ、カナダに遅れることなく交渉参加が可能」と日本に判断を迫っています(7/11 時事)が、未だに政府の決断は不透明です。
また、「食農再生戦略」には、TPPへの戦略が無く、農家戸別保証や青年就農給付金などのバラマキ等のみで、イノベーションの意識は薄く、農業の輸出産業化に向けた熱意は見られません。
TPPについては即刻参加を表明し、TPP交渉でリーダーシップを発揮すると共に、農業分野においては、幸福実現党が提言しているように、参入の自由化、農業の大規模化・効率化、農地の自由売買等の構造改革を進めるべきです。
また、「パッケージ型インフラ輸出」は有望な分野ですが、韓国やフランスの大統領による原発のトップセールスのように、政府首脳が経済界のリーダーを多数引率して相手国にセールスする政治力が必要ですが、日本政府は苦手としており、日本企業もバラバラに行動しています。
以上、主要な3論点についての危惧を述べましたが、更に共通して欠落している点を一つ挙げるならば、「安全保障」の観点が欠けていることです。
中国の覇権主義を抑止できる自主防衛力の確立が無く、対等な外交交渉はじめ、領土や海洋資源を保持し、安心した経済活動を行うことは出来ません。また、経済成長の要となる新技術の開発は「防衛産業」にあります。
結局のところ、「日本再生戦略(案)」は、日本が置かれている厳しい国難を打破するための「戦略的発想」に欠けており、「消費増税導入のための数字作り」に過ぎないと言えます。
これでは、次期衆院選の選挙対策としての「バラマキマニフェスト」や「官僚の利権拡大戦略」と言わざるを得ません。
政府は、国家のサバイバルをかけて、日本を真に再生させる戦略を立て、断行していくことが求められます。
(文責・小川俊介)