検討すべき社会保障改革とは
政府の一般会計予算の歳出に占める社会保障関係費は2010年で27.3兆円に上りました。歳出総額が92.3兆円ですので、実に約3割を占める計算になります。
少子高齢化の影響もあり、今後は社会保障関係費が毎年1.3兆円規模で拡大するとの見込みがあり、財源としては消費税を充てるという議論が定着しつつあります。
「税と社会保障の一体改革」の議論では、2010年代半ばまでに消費税を15%に、2020年をめどに20%へ引き上げる提案も出されております。
また、野田首相は、来年の通常国会で消費税増税法案を可決する意気込みを「不退転の決意」で取り組む旨を発表しました。
復興増税の財源確保法案の可決に次いで、社会保障を充実させるための消費税増税が現実化しようとしているわけです。
社会保障と言えば、まるで「聖域」かのように扱われています。確かに、人命にかかわる医療や介護を無視できるものではありません。
現在の日本では公的医療制度が充実しており、私達は少ない負担で医療や介護を受けることができます。
そのため、日本の社会保障制度は「安心・安全」だという評判もありますので、評価できる面も多数あることも事実です。
ただし、日本の社会保障制度が今後も維持可能かどうかは別問題です。
前述の社会保障関係費ですが、国民の皆様が支払った保険料収入は約7兆円弱です。言い換えれば、20兆円以上の公費=税金が投入されていることを意味します。内訳は、基礎年金の5割、医療保険の約4割、介護保険の約6割となります。
本来ならば7兆円で運営するべきものを、3倍の税金で補填していたわけです。その結果、私たちの医療や介護の自己負担は、確かに低く抑えられていました。
ただ、当制度を維持するために「税金の大判振る舞い」が行われていたということを知らなければいけません。
社会保障が専門の学習院大学の鈴木亘教授によれば、経済学的に、これほどの公金が投入される理由は薄いと指摘します。よって、増税の前に社会保障にこれだけの税金が必要かどうかの見直しは不可欠です。
社会保障支出の見直しを、専門的には「選択と集中」と呼んでいます。
中心的な議論は「保険料負担の引き上げ」と「支出の抑制」が論点となります。「負担の引き上げ」とは、保険料負担の引き上げを意味します。「支出の抑制」とは、支給額の引き下げです。
いずれにしても、政治的には困難を極める問題であり、国民に不人気な政策です。
例えば、小泉政権時代に決定された後期高齢者医療制度(実施は福田政権から)においても、高齢者の方からの猛烈な反発があることを見れば、いかに社会保障分野にメスを入れるかが政治的に難しいかを物語っています。
では、消費税増税ならばよいのでしょうか?
実は、消費税を増税しても、本当に福祉のために使われる保証はありません(実際、増税派の財政学者である井堀利宏教授のグループは、福祉目的としての消費税増税に懐疑的。かえって関連業界の非効率性を高めると指摘している)。
むしろ、医療や介護のために支払った保険料は制度上、確実に使用されるわけですので、保険料引き上げの方が増税よりも正当性はあると言えます。
社会保障制度は、主に低所得者を救済するセーフティーネットして機能しています。中所得者や高所得者は、民間保険や自由診療を選択する余裕もあります。
各階層を一律に扱うからこそ、自己負担率が低く、保険料が安くなり、医療や介護の過剰需要をもたらします。その結果、社会保障分野に待機問題を引き起こすわけです。
同時に、公的部門では民間部門に比べてサービスや効率性が低下するという法則があります。いわゆる「X非効率」と呼ばれる問題です。
サービスの提供という観点からは、公的部門の比重が大きくなることは好ましくありません。ただ、社会保障分野に市場原理を全て適用し、「アメリカ型」にせよと言いません。
現在の社会保障制度のままでは参入規制や価格規制が強いため、非効率なサービスの温床を避ける方が望ましいというだけです。
その観点から言えば、TPPへの参加は、国家社会主義的な社会保障分野に競争をもたらすという意味でメリットがあります。
今こそ、社会保障の選択と集中で、支出抑制とサービス向上を目指すべきではないでしょうか。
最後に、社会保障関連で決定的に欠けている論点について述べます。それは、「パイを増やす」という発想です。
社会保障は、基本的に所得再分配政策であるので、国家による統制色が強くなる傾向があります。
しかしながら、適切なマクロ経済政策を実施すれば成長率が高まり、税収も増えます。同時に保険料収入も増えます。
単純に「パイを分け合う」のではなく、「新しいパイを焼く」ことで、少子高齢化による社会保障の財源を確保することもできるわけです。
「税と社会保障」を議論する際は、もっと「経済成長」を考慮するべきです。
幸福実現党が掲げる、最大の社会保障は「豊かな社会」です。自由主義と自助努力に基づいた「生涯現役」社会を推進することで、いたずらに国家に頼らない個人や社会を目指しています。
安易な税金投入や増税ではなく、国家全体が豊かになる方向で社会保障改革を検討するべきだと考えます。
(文責・中野雄太)