日米貿易交渉を契機に農政の大転換を

日米貿易交渉を契機に農政の大転換を HS政経塾スタッフ 遠藤明成 ◆日米経済協議の中で農業は重要分野 5月に訪日したトランプ大統領は、日米貿易交渉の結果について、「8月に発表ができると思う」と述べました。 この交渉が本格化するのは参院選後となる見込みですが、そのなかで、日本の保護農政のあり方は、大きな争点の一つになっています。 日本では、自由に競争が行われている農産物と、高関税などで保護される農産物との差が大きいので、特に後者が問題視されているのです。 ◆米国が交渉を急ぐ背景 米国の通商代表部(USTR)は、日本には、牛肉や豚肉、コメ、小麦、砂糖、かんきつ類などに「貿易障壁」があると批判しています。 --- 【米国から見た「貿易障壁」の例】 ・コメ:輸入分のほとんどが加工・飼料用や食料援助用となり、消費者に提供されない ・小麦:小麦輸入は国家貿易 ・豚肉:差額関税制度(国内販売価格より輸入価格が安い場合、差額分が関税扱いとなる) --- 米国はTPPを離脱したため、現状ではFTAの恩恵を受けられず、TPP11の国々よりも高い関税がかかっています。 例えば、米国産牛肉には36%の関税がかかりますが、TPPに加盟している豪州・カナダ・ニュージーランド・メキシコの牛肉は27.5%です。 そのほか、日欧FTAも発効したので、欧州の農産品も関税削減が始まっています。 結局、現状は米国農産品に不利なので、トランプ政権は交渉を急いでいるわけです。 ◆日米協議についての安倍政権のスタンス 米国はTPPよりも有利な条件を勝ち取るために、TPPを離脱しました。 「(米国は)TPPに参加しておらず、縛られていない」(トランプ大統領 5/27) しかし、安倍政権は一方的にTPPを離脱した米国を他国よりも優遇できないと考え、「TPPと同水準」で日米貿易交渉をまとめようとしています。 安倍政権は、選挙で農業票を失いたくないので、「コメや麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖」などの関税は譲れないと考えているのです。 ◆減反と高関税でコメの消費者負担は重くなる しかし、高関税は輸入品の値段をあげ、消費者に負担を強いるので、国民全体の利益を損なっています。 農政アナリストの山下一仁氏は、生産量を減らす「減反」と「高関税」でコメの値段が上がり、年間6000億円もの国民負担を生んでいると指摘しています。 マスコミ報道では、「安倍政権が減反を廃止した」ことになっていますが、この種の補助金は、違った形で支払われています。 減反補助金と、2010年度に始まった戸別所得補償を足すと、年間で4000~5000億円の規模になっていました。 この補助金の配分が2013年に変わり、普通のコメのかわりに飼料米などをつくる農家への補助金が強化されたのです。 農政の体質は変わっていません。 (2019年予算では「水田活用の直接支払交付金」 が3215億円。これに他のコメ農家支援の項目が追加される) 山下一仁氏は、4000億円以上の補助金に高米価がもたらす6000億円の消費者負担を足すと、国民は毎年、1兆円以上の負担を強いられていると試算していました。 ◆保護農政の結果、主業農家は農地規模を十分に拡大できず 減反が始まった1970年に農地は580万ヘクタールありましたが、2017年には444万ヘクタールにまで減りました(23%減)。 1968年に1445万トンあったコメの生産量は、2017年には782万トンにまで下げられています(46%減)。 本来は、自由競争の中で農産物を増やし、余った分を輸出すべきなのに、コメ農政はその逆になっています。 この政策は「自給率の向上」を目指す農林水産省の方針とも矛盾します。 自民党や公明党は、農業だけでは食べていけない兼業農家の票を得るために、補助金行政を続けてきました。 その結果、自由競争に任せれば農業をやめて土地を貸し出す層までが保護されたので、主業農家は農地を十分に拡大できなかったのです。 ◆コメ農政の大転換を 農業では、「規模を大きくして生産コストを下げる」という規模の経済が働きます。 しかし、日本では、そのメリットを活かせませんでした。 そのため、幸福実現党は、生産調整に伴う補助金を廃止し、主業農家の生産量を増やそうとしています。 生産量が増えれば、農産物の価格が下がるからです。 また、輸出できるほど農産物を増やせば、非常時に輸出分を自国消費に回せるので、食糧安全保障は強化されます。 日本は、トランプ政権との日米交渉を契機に、農政の大転換を行うべきです。 幸福実現党は、立党以来、生産調整(減反)の廃止と大規模化の推進を訴えてきました。 家計を楽にするために、生産を増やし、安いコメが買える農政を実現してまいります。 【参照】 ・外務省「2019年 USTR外国貿易障壁報告書(日本関連部分概要)」 ・農林水産省「平成29年度 農林水産白書」 ・農林水産省「米をめぐる関係資料」(平成30年7月) ・山下一仁著『日本農業は世界に勝てる』(日本経済新聞出版社)