「地域医療構想」を疑ってみる 幸福実現党・岡山県本部代表 たなべ雄治 ◆地域医療構想の分析結果 厚生労働省は今月10日、各都道府県による「地域医療構想」の分析結果を公表しました。 「地域医療構想」 とは、団塊の世代が後期高齢者に入る2025年時点の医療提供体制を想定したものです。 在宅医療を推進しつつ病床数を調整し、コストを抑えて効率的な地域の医療提供体制を整えるのが目的です。 全国341の区域についての分析結果によると、長期療養向けの入院ベッド「慢性期病床」および救急医療や先進医療を担う「高度急性期病床」と「急性期病床」の数は減少する傾向です。 一方でリハビリ患者らが入る「回復期病床」については高齢者のニーズが高まり、多くの地域で増加するという結果が出ていますが、全病床トータルでは減少する見込みとなりました。 ところで、なぜここで「病床数」を気にしているのでしょうか。 それは、病床を上述のとおり4分類して、その数に規制をかけているからです。 地域ごとにニーズを吸い上げ、それに合わせて病床数を規制して、管理によって医療提供を効率化しようというのが「地域医療構想」の方針なのです。 ◆管理による効率化の危険性 ところが管理による効率化には、失敗してきた黒い歴史があります。 需要と供給のバランスで価格が決まる市場経済とは異なり、管理された経済では競争原理が働きませんし、変化に対する自動調整も働きません。 まさに日本の医療分野においても、これで失敗した事例があります。 看護師を手厚くした病床の診療報酬を引き上げたところ、多くの病院がそちらに偏り過ぎて、医療費の値上がりと看護師不足を招いたことが実際にありました。 市場経済にはない、不安定さがどうしても付きまといます。 ◆では市場経済が良いのか では反対に、医療を手放しで市場に任せても良いものでしょうか。 実はそう簡単ではありません。経済学においては一般的に、医療は市場経済になじまないと言われています。 医療には、市場経済を働きにくくする要因がいくつかあるからです。 例えばテレビを買いたい場合、店頭やカタログ、ネットの評価など、色んな情報を参考にしながらじっくり選ぶと思います。 ところが医療サービスを受ける場合、買い手(患者)は十分な情報を得ることができません。医療においては高度な専門知識が要求されるからです。 電気屋さんに、「このテレビを買いなさい」と強制されることはあり得ません。 しかしお医者さんに「その症状にはこの治療が必要です」と言われたら、「そうですか」としか言いようがありません。 極端に悪い表現をするなら、売り手(医者)の言い値で買わされる状況なのです。 これが、医療で市場経済がうまく働かないとされる大きな要因の一つです。(経済用語で「情報の非対称性」と言います。) ◆医療を市場経済に任せた失敗事例 そんな中、医療を市場経済の競争原理に任せた国があります。それがアメリカです。 その結果どうなったかというと、医療費が高騰しています。 例えば、初診料3万円。虫歯一本10万円。盲腸手術100万円・・・。お医者さんの言うままに、高値が付けられているという状況なのかも知れません。 また、それにつられて医療の保険料も跳ね上がり、一家四人で月15万円にもなるとか。 先進的な医療技術が多くて研究開発の元を取るために高価になったり、(訴訟国家だけあって)医療訴訟保険料に連動して医者の人件費が上がったり、アメリカ特有の要因であることはあるのですが。 それにしても怖いです。 ◆医療をどう捉えるか 医療を安易に市場経済に委ねるわけにはまいりません。 しかしだからと言って、競争原理を諦めるのも早計です。 成功報酬制度を導入して、制限的に競争原理を取り入れたイギリス医療の実例もあります。 あるいは、公共と民間が並立して競争している分野もあります。例えば学校ですが、公立学校の存在が私立学校の学費の高騰を抑制しています。 同様に、国選弁護士と私選弁護人のような関係の制度も存在しています。 はたまた、混合診療を解禁することで保険外診療が浸透すれば、その分野で競争原理を働かせることもできていくでしょう。 完全には市場経済に任せないことで、アメリカのような医療費高騰を防ぐことは可能です。 行政が進めている「効率化された管理」だと、状況が変化すると途端に非効率化してしまします。 部分的にでも競争原理を取り入れていき、「競争による効率化」を導入すべきでしょう。 効率的な状況を維持するためには、これが必要です。
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