【地方議員は語る(前編)】再エネ推進を巡る地方議会の攻防。世界の潮流は「再エネ推進」「原発推進」のどっちだ?
埼玉県東松山市議会議員 佐藤恵一
◆「再エネ」の問題は地方議会でも激論
昨今、「再エネ」の問題が、国政レベルの政治テーマとなっていますが、地方議会も無縁ではありません。
私が市議を務める埼玉県東松山市の3月定例会では、再エネを推進すべく「脱炭素」「脱原発」を訴える内容が議論されました。
内容としては「気候変動対策とエネルギー自給が重要であり、日本政府が脱炭素政策の柱とした原発活用と火力発電の延命・温存は世界の脱炭素化の流れと逆行している。目的達成のための手段としては再エネしかないので、2035年の再生可能エネルギー電力目標を80%以上とすることなどをはじめとした4つの具体的要望を議会の意見書として国に要望して欲しい」というものでした。
こうした内容が、革新系の議員の方を中心に提言され、激論が交わされました。
◆地方議会で、国政テーマは「請願」「意見書」という形で論戦が行われている
具体的には、国に対して意見書の提出を求める請願として提出されました。
地方議会における請願とは、市政に関することを直接、市議会に要望できる制度で、意見書とは議会の議決に基づき、議会としての意見を内閣総理大臣、国会、関係行政庁に提出するものです。
実は請願であっても、議会に意見書提出を求める内容であれば、国政に影響を与えることができます。
他の自治体の最近の事例では、香川県で「選択的夫婦別姓」の法制化などを国に求めることが全議会で可決され、新聞などが報じています。地方議会であっても、メディアなども通じて、国政テーマにも影響を与えることができるわけです。
請願はこうした国政のテーマも取り扱うことができるものであり、しばしば世論形成の目的でも利用されることがあります。
そうした請願ですが、提出の際には当該地方公共団体の議会の議員が「紹介議員」となる必要があり、今回の請願はある市民団体の代表者が提出者となり、革新系の議員を紹介者として提出されました。
提出された請願は、私が所属する経済建設常任委員会で審議することとなりました。
請願は提出されると、関係する委員会で審議され、「採択」「不採択」の決定が行われます。議員全員の会議である「本会議」で、全ての議案を細かく審議すると、議会がパンクしてしまいます。
ですから、地方議会では、各委員会がそれぞれの担当分野の議案を審議し、その審査結果を、本会議に報告し重要な審議資料とします。
議会によって名称や所管する内容等は異なりますが、東松山市議会では4つの常任委員会が設置されています。
常任委員会とは、常設されている委員会という意味で、私の所属する経済建設常任委員会では、環境問題や商工業、農政、観光に関わることなどを調査、審議します。
◆最新の世界の潮流が、反映されていなかった再エネ推進の請願
今回の請願は、「脱炭素と再生可能エネルギーへの転換の加速を国に求める意見書の提出を求める請願」という名称で、「原発推進が世界の流れと逆行している」という内容も盛り込まれていました。
しかし、この請願には、大きな問題がありました。日本政府が脱炭素政策の柱とした「安全確保を大前提とした原子力の活用」については、決して世界の潮流に逆行していないのです。
昨年12月に開催された気候変動対策を話し合うCOP28においては、198カ国から関係者が集まりました。
合意文書の中には「原子力」などの再エネ以外の低排出技術も気候変動対策の有効な手段として明記され、日本を含む22カ国が2050年までに原子力エネルギー容量を3倍に増加させる宣言が発表されています。
以上のことから、本請願は最新の世界情勢を反映しているとはいえないものだったのです。世界の潮流を「脱原発」と決めつける姿勢は問題で、結論ありきで脱原発を訴えているようにも感じました。
◆反対討論を多くの方に共感頂き、請願は不採択へ
私はこの点を中心に論戦を展開させていただきました。
具体的には「日本政府の政策は、世界の潮流に逆行しているとはいえず、むしろ本請願が世界の潮流を見誤った内容であり、議会として取り扱うのは不適切」と委員会内で反対討論をし、多くの議員の支持を得ました。
今回、論点を「世界の潮流」に絞ったのには、理由があります。
請願の内容を見ると、政府が進める原発推進は世界の潮流から外れており、間違っているものなので、目的達成の手段は「再エネ推進しかない」という結論になっています。
しかし、「世界の潮流は脱原発」という前提が崩れたらどうなるでしょうか。そうなれば、請願自体の正当性は失われます。それを、誰しも否定できない事実をベースに指摘することで、誰しも納得せざるを得ない反対討論ができると考えました。
反対討論の結果、委員会審査は不採択となりました。委員会終了後には、同僚議員から、よく調べられた良い内容だったと称賛のお言葉をいただきました。
委員会では不採択になったものの、請願は委員会採決の後、本会議でも採決が行われます。
本会議で経済建設常任員会に属していない議員が委員会での採決結果に異議を唱えてくることが予想された他、請願とは別に革新系の議員が提出していた「意見書案」にも反論する必要がありました。
委員会での反論の論点を絞ったもう一つの理由は、ここにもあります。反論材料を温存し、本会議で予想される論戦に備えることにしたのです。
こうして「脱炭素、再エネ推進」をめぐる攻防は、第2ラウンドに移っていきます。
(後編につづく)