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自分の国は自分で守る体制整備に向けた防衛費の確保を

http://hrp-newsfile.jp/2022/4355/

幸福実現党政務調査会 西邑拓真

◆ 防衛費増額に向けた議論が活発化

今、日本の防衛費の増額をめぐり議論が活発化しています。

現在、日本の防衛費にあたる「防衛関係費」は5兆1,788億円で(※1)、GDP比でわずか1%弱の水準に留まっています。

一方、日本の安全を脅かす中国は、軍事費は毎年拡大を続けており、2022年度は前年比で7.1%増となる約26兆3000億円にすると明らかにしています(※2)。

政府は年末までに、安全保障の基本方針などを示す、いわゆる「安保3文書」を同時改定する予定であり、今、従来の安全保障政策を転換するタイミングとなっています。

特に、5年間の防衛費の総額を明示するのは「中期防衛整備計画」と呼ばれるものです。あるべき防衛費の水準を巡り、様々な意見が交わされている状況です。

◆今、防衛費は「倍増」で足りるのか

日本は今、中国や北朝鮮のほか、日本が対露包囲の姿勢を明らかにしていることで、ロシアからも軍事的脅威を受ける状況となっています。

最悪の状況を想定して、然るべき防衛体制を整備する観点で考えれば、「防衛費倍増」では足りなくなっているのが現実ではないでしょうか。

日本の防衛費の使途内訳は大まかに、「人件・糧食費(2兆1740億円)」、「維持費等(1兆2788億円)」、「装備品等購入費(8165億円)」、「基地対策経費(4718億円)」、「施設整備費(1932億円)」、「研究開発費(1644億円)」などと分類されます(※3)。

自衛隊が十分な活動を展開するにあたっては、どの要素も不足しているというのが現状です。以下、4つのポイントを挙げてみます。

(1)正面装備・継戦能力

日本の防衛予算5兆円程度のうち、武器・弾薬戦車や戦闘機など、いわゆる「正面装備」に割かれるのはたった2割弱にすぎません(※4)。

また、日本の防衛体制について、武器弾薬、砲弾が足りず、継戦能力(戦闘を継続する能力)が圧倒的に不足していると指摘されてきました。例えば、中国が沖縄の離島へ侵攻するという事態を想定すれば、現状よりも弾薬が20倍以上必要である(※5)とされています。国を守る上で必要となる装備を維持、充実させるほか、有事を想定して十分な弾薬などを確保することは絶対不可欠でしょう。

(2)抗たん性の向上

抗たん性、すなわち「攻撃に耐える」力を向上させる必要もあります。日本がミサイル攻撃を受けるような最悪の事態において、たとえ「反撃能力」を有していたとしても、相手のミサイルにより戦闘機やミサイル、武器の補給庫などが攻撃されれば、もはや反撃することができなくなります。

日本のこれら自衛隊の装備品および補給庫は抗たん性に欠け、いわば丸腰状態にあるとも言われています。有事を想定して、こうした施設の抗たん性を強化しなければなりません。

(3)研究開発費

研究開発費も圧倒的に足りない状況です。米軍が研究開発費に16兆円を使っている一方で、日本の防衛省はわずかに2千億円程度にすぎません。

日本の武器調達は、FMS(※6)という枠組みを通じ、米国からの武器購入に大きく依存しています。しかし、米国が主導的に価格を設定するため、いわば「言い値」で武器を調達せざるをえなくなるため、この枠組みでは調達額の高騰化を余儀なくされます。

そのほか、装備品の体系が、米国の方針に影響を受けることになり、日米共同防衛のためにはたいへん有効であっても、一方で日本が主体的な防衛戦略を組み立てることが阻まれてしまうというデメリットも挙げられます。

以上を踏まえても、日本は防衛力強化に向けた研究開発費を大幅に引き上げるべきと考えます。最新鋭の武器を自国で生産する体制を整備すれば、国富の流出が抑えられるとともに、関連企業の活性化など経済面でもメリットがあります。

最近、ポーランドが韓国製の兵器を大量に購入しているように(※7)、武器を他国に売れるようになれば、これまで投じてきた研究開発費を回収できるほか、定期的なメンテナンス等により、輸出先国との関係強化に寄与することにも繋がります。

(4)自衛隊員の待遇改善

自衛官のなり手が減少している今、自衛官の生活環境や待遇を改善に向けて、「人件・糧食費」を拡大すべきとの声も高まっています。

以前、トイレットペーパーすら経費で賄えず、自衛官が自費で調達しなければならないとの実態が明らかになり、話題となりました。

このほか、訓練などで自衛隊員が移動するにも、予算から高速道路料金が捻出できず、節約のために一般道を走ったり、目的地から相当距離の離れたインターチェンジで高速から降りることなどを余儀なくされています(※8)。総じて、予算不足が明らかとなっているのです。

その他、サイバー防衛に向けた十分な体制を整備するための予算を確保するほか、電磁波領域の構築やレーザー兵器の実用化に向けた費用など、防衛予算は抜本的に拡充する必要に迫られているのです。

◆防衛力強化に向けた本質的議論を

岸田文雄首相は、5月の日米首脳会談後の記者会見において、「防衛費の相当な増額を確保する」と表明したほか、自民党は今年6月発出の参院選公約で、来年度から5年以内に、対GDP比2%以上を念頭に、防衛力の抜本的強化に必要な予算水準の達成を目指す」との旨、記載しています。

しかし、国家存続の危機が迫る今、防衛費を「5年」で倍増するなど悠長なことを言っている場合ではありません。防衛費の水準も「倍増」ではもはや不十分でしょう。

トランプ政権で米国防省副次官を勤めたエルブリッジ・コルビー氏は「日本は直ちに3倍程度に引き上げるべきだ」としているほか(※9)、「3文書」改定にあたり、政府が行った有識者との意見交換の場で、有識者から「防衛費は3倍に増額すべき」との意見が出ていることが明らかになっています。

尚、鈴木俊一財務相は16日、海上保安庁予算など安全保障に関連する費用を、幅広く防衛費に組み入れるとの可能性に言及しています。

省庁間での予算の獲得に向けた駆け引きがあるにせよ、既に別の予算で計上されている費用を「防衛費」に組み入れるなどすれば、いくら防衛費を引き上げたところで、防衛力の強化にはほとんど寄与しないと言えます。

防衛費の引き上げに向けては、金額ベースの議論だけが一人歩きするようであってはなりません。

本来は、然るべき防衛戦略のアウトラインを示した上で、その際に必要となる防衛費の水準と、その確保に向けた議論を行うべきでしょう。

◆防衛費の財源確保に向けては

では、防衛費の増額分の財源はどう捻出すべきでしょうか。

まず、防衛費増は「増税」で賄うべきとの意見がありますが、コロナや物価高による経済低迷に対し、増税で追い討ちをかけることは避けるべきです。

長い目で見て、防衛力強化に向けては経済を成長軌道に乗せるとの観点は欠かせません。

では、「新規国債発行」はどうでしょうか。1,200兆円超の債務を抱える今、日本の財政は危険水域に達しており、新たに国債を発行する余裕はほとんどないのが現状です。

国防強化は喫緊の課題であり、国防強化をおろそかして、国家そのものがなくなってしまえば、元も子もありません。

そのため、短期的には、現実的には新規国債発行に頼ることもやむをえないのかもしれませんが、本来は、国の「無駄遣い」「バラマキ」を徹底してなくすほか、財政の構造的赤字の要因となっている社会保障の抜本的な制度改革に向けた議論を徹底するなど、財政健全化の道筋を付けることが必要です。

日本はリーダー国として、アジアにおいて「自由・民主・信仰」の価値観を守り抜く使命があるはずです。

日本の平和を米国に頼り切るという姿勢を改め、軽武装・経済優先の「吉田ドクトリン」から脱却し、「Be Independent」の精神を持って、真の意味で「自分の国は自分で守る体制」を整備するための防衛費を確保すべきです。

(※1)令和4(2022)年度当初予算。防衛省「我が国の防衛と予算〜防衛力強化加速パッケージ〜―令和4年度予算(令和3年度補正を含む)の概要―」より

(※2)時事ドットコム(2022年3月6日付)「『強国』継続を明確化 コロナ禍も軍拡加速―国防予算、日本の5倍・中国全人代」より

(※3)防衛省「日本の防衛―防衛白書―令和4年版」(p.220)より

(※4)谷田邦一「防衛費の増額は、いったい何に使うべきなのか?」(nippon.com, 2022年7月6日)より

(※5)産経新聞(2022年8月12日付)「<独自>対中有事で弾薬20倍必要 九州・沖縄の備蓄1割弱」より

(※6)国立国会図書館(「調査と情報」)「有償援助(FMS)調達の概要と課題」(2022年3月1日)より

(※7) dziennikzbrojny.pl, Korean Orders – The Armaments Agency reveals details(英訳) ( 2022/7/24, http://dziennikzbrojny.pl/aktualnosci/news,1,11672,aktualnosci-z-polski,koreanskie-zamowienia-agencja-uzbrojenia-ujawnia-szczegoly), 現代ビジネス(2022年8月29日)「【総額1兆円以上】ポーランドが韓国製兵器を爆買いするワケと日本の防衛産業がヤバすぎる」などより

(※8)日本経済新聞(2022年9月7日付)「自衛隊、劣悪環境で人材難『人的資本』軽視のツケ」より

(※9)日本経済新聞(2022年8月4日付)「『日本は防衛費を3倍に』元米国防省高官コルビー氏」より

西邑拓真

執筆者:西邑拓真

政調会成長戦略部会

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