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【連載第2回】「温室効果ガス46%削減」 日本は鉄を捨て、自ら兵糧攻めを選ぶのか

http://hrp-newsfile.jp/2021/4101/

幸福実現党 政務調査会エネルギー部会

◆政府は「46%削減」のための政策を策定中

菅首相が表明した温室効果ガス(GHG)の「2030年度に2013年度比46%削減」は、具体的にはどんなことを意味するのでしょうか。

現在、「46%削減」に合わせて、経済産業省がこれを実現するための新しいエネルギー政策を策定中です。

これらの具体的な中身は、経産省の審議会である総合資源エネルギー調査会傘下の基本政策分科会などで議論され、資料が公開されています(※1)。

一部の報道によれば(※2)、新しいエネルギー政策の素案は7月21日に審議会に提示され、8月に政府原案を決定し、10月までの閣議決定を目指すとされています。

しかし、この内容はきわめて厳しいもので、もし本当にこのような政策を実行した場合には、莫大な国民負担によって日本経済は破壊され、エネルギーの安定供給が不可能になり、中国など全体主義国家の侵略に対して日本はなすすべもないという、恐怖の未来像が浮かび上がってきます。

本来、日本のエネルギーを守るはずの経産省が、官邸に忖度し、日本の破滅を招きかねない恐るべき政策を策定しているという現実に対して、国民はもっと反対の声を上げていかなければなりません。

「敵」はグレタ・トゥーンベリ氏(スウェーデンの環境活動家)だけではありません。我が国政府の政策そのものに、日本を自滅させる罠が潜んでいるといっても過言ではありません。

では、その中身を見ていきましょう。

◆鉄は日本で作れなくなる?

製鉄はそのプロセスで大量のCO2を排出するため、経済産業省の審議会では、日本の粗鋼生産量を2030年度に約9,000万トンまで減らすことを検討しています(※3)。

現行の「長期エネルギー需給見通し」では2030年度に約1億2,000万トンの粗鋼生産量を見込んでいるため、現行計画のなんと4分の1をカットする計算です。

2020年度にはコロナの影響で粗鋼生産量は約8,300万トンまで落ち込んでいますので、ここからできるだけ回復させず、日本での製鉄を落ち込んだまま維持すれば、国内のCO2排出を減らすことができます。

しかし、鉄鋼生産は国内の自動車や建設など他の産業と深く結びついているため、これらの生産活動に必要な鉄鋼を国内で供給できず、輸入で補うことになり、やがて自動車産業などは鉄鋼を十分に供給できる中国などに丸ごと持っていかれてしまう可能性があります。

1990年代半ばまで日本の粗鋼生産量は世界第1位で、「鉄は国家なり」とも言われました。その後日本は中国に抜かれ、2020年の中国の粗鋼生産量は10億5,300万トン、第2位のインドの10倍を超えます(※4)。

鉄鋼は軍艦、戦車、兵器などの材料でもあること考えれば、自国で製鉄をやめることが安全保障上、どれほど大きな問題であるかがわかります。

国内のCO2の排出を減らすために国内の鉄鋼生産を減らすなど愚の骨頂で、むしろ国内の規制や税金などのコストを減らして鉄鋼生産を国内に戻し、日本の製鉄業を強化していく政策こそが、日本の繁栄と安全を守るためにとても重要です。

鉄鋼だけでなく、石油化学、セメント、自動車、電機などの産業にも同様のことが言えます。国内のCO2の排出を増やしてでも、日本にこれらの製造業を回帰すべきです。

◆石炭もLNGも半分しか使えなくなる

日本のGHG総排出量(CO2換算)を2030年度に2013年度比で46%削減すると、7.60億トンになります。

第1回で述べたとおり、総排出量にはエネルギーの使用に伴って排出されるCO2以外からのGHG排出や、森林による吸収なども含まれているため、実質的には2013年度の「エネルギー起源CO2排出量」約12.35億トンを、2030年度に約6.45億トンまで、48%減らすことが目標となります。(※5)

エネルギー起源CO2は「電力由来CO2」と「非電力由来CO2」に分かれますが、本稿執筆時点では「電力由来CO2排出量」と「非電力由来CO2排出量」の比率が示されていないため、報道等で示された電源構成をもとにこれを推定してみましょう。

一部の報道(※6、※7)によれば、検討中の電源構成は火力発電が40%、原子力、再生可能エネルギー、水素・アンモニア発電を合わせたゼロエミッション電源が60%とされています。

現行の2030年度の電源構成の考え方(予備力の石油は3%、石炭はLNGよりも1%下げる)を踏襲して火力発電の内訳を石油3%、LNG 19%、石炭18%と置き、2030年度の発電量を現行見通し(10,650億kWh)よりも1割程度抑制すると考えると、LNGによる発電量は約1,800億kWh、石炭による発電量は1,700億kWh程度まで減らすことになり、2019年度実績(石炭3,267億kWh、LNG3,802億kWh)(※8)と比べて半減することになります。

これを燃料消費量に置き換えると、2019年度実績はそれぞれ、LNG約5,400万トン、石炭約1億1,000万トンですが、日本は2030年度にはLNG約2,700万トン、石炭約5,900万トンしか使えなくなることを意味します。日本はまさに、自ら「兵糧攻め」を選ぶことになります。

一方で、隣の中国では2030年頃まで石炭火力・LNG火力とも「爆増」し、毎年日本の総排出量1年分くらいのCO2を増やし続ける計画です(※9)。日本の政府は国内のCO2を減らすために、国家としての自殺行為をするつもりだとしか言いようがありません。

なお、この仮定に基づいて2030年度の「電力由来CO2排出量」を推定すると、約2.3億トンまで減少しますが、「非電力由来CO2排出量」の削減が困難であることを考慮すると、この水準でもおそらく総排出量の「46%削減」には届かず、さらに石炭火力を厳しく規制してCO2排出量を減らすことになる可能性があります。

石炭の減少分を再エネに置き換えることは難しいため、結局は石炭火力を止めてLNG火力を多く運転することになり、現在のLNGへの過度の依存がますます顕著になるでしょう。

中国のLNG輸入量は「爆増」しており、2021年には日本のLNG輸入量を超えるとみられています(※10)。

このような中で日本が石炭の使用をやめてLNG依存を高めれば、LNGは中国と取り合いになり、需要が競合する厳冬期などには必要な火力発電の燃料を確保することもできなくなります。

CO2を減らすことを主目的にして電源構成を決めることが、いかにエネルギーの安定供給を脅かし国家の安全保障を危機に晒すかが、お分かりいただけたと思います。

次回は、「46%削減」の辻褄を合わせるために、日本中が中国製の太陽光パネルで埋め尽くされるというお話をします。

参考

※1 総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/

※2 「原発『必要規模を持続的に』 エネ基骨子案判明」 2021年7月6日 産経新聞
https://www.sankei.com/article/20210706-ZQBRWGADEVNBZJSLJ3EXPLUDTE/

※3 総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会(第33回) 事務局資料(2) 「2030年エネルギーミックスにおける省エネ対策の見直しに関する経過報告」 2021年4月30日 資源エネルギー庁
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/pdf/033_02_00.pdf

※4 「世界粗鋼生産、20年0.9%減 中国10億トン超え」 2021年1月27日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQODZ273JI0X20C21A1000000/

※5 地球温暖化対策計画 2016年5月13日閣議決定
https://www.env.go.jp/earth/ondanka/keikaku/taisaku.html

※6 「脱炭素電源、6割視野に 原発は30年度2割維持」 2021年5月13日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA133S30T10C21A5000000/

※7 「電源構成とは」 2021年5月25日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2459Z0U1A520C2000000/

※8 総合エネルギー統計 集計結果又は推計結果 資源エネルギー庁
https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/total_energy/results.html

※9 『「脱炭素」は嘘だらけ』 杉山大志 産経新聞出版 ISBN978-4-8191-1399-1

※10 「LNGも日中逆転 需要縮小が問うエネルギー安全保障」 2021年7月1日 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA3027F0Q1A630C2000000/

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執筆者:webstaff

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