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防衛予算倍増で同盟強化と自主防衛の推進を

http://hrp-newsfile.jp/2019/3667/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆対中抑止に前向きな米陸軍長官が次の国防長官代行に

7月中旬に入り、米国の安全保障について、2つほど重要なニュースが流れています。

その一つは、次期国防長官に指名されたマーク・エスパー氏(当時は陸軍長官)が、7月16日に上院で公聴会を行ったことです。

エスパー氏は1986年に陸軍士官学校を卒業した後、91年に空挺師団の一員として湾岸戦争に参加。

10年間の軍役を務め、国境警備隊等でも11年務めた後、2007年に陸軍から引退しました。

その後、米防衛大手レイセオン社で7年ほど、政府との交渉を担う重職を担っています。

同氏は、トランプ政権発足後、防衛長官を支えてきたのですが、前任者のシャナハン氏の辞任に伴い、後任に指名されました。

エスパー氏は、ロイター通信の取材で、90年代から中国の軍拡をウォッチングし続けてきたことを明かしています。

「中国との競争、中国の能力といったことは私にとって新しい話題ではない。私はこの進展を20年以上見続けてきた」

同氏は、上院の公聴会では、今後、米軍が中距離ミサイル等を配備することを明かしました。

8月2日には、米露間で「INF全廃条約」が失効しますが、トランプ政権は、米露が射程500~5500kmのミサイル開発と配備を禁止している間に短・中距離ミサイルを増やしてきた中国を抑止しようとしているのです。

こうした、中国の軍拡に対して強い警戒感を持ったリーダーが米軍を率いることは、日本の安全保障にとってはプラス要因になります。

◆米国防予算案 民主党が下院を制しても7000億ドル台

2つ目の重要なニュースは、7月12日に、米下院で「国防権限法」が可決され、2020年度の軍事費が7300億ドル以上になることが決まったことです。

19年度は7160億ドルなので、民主党が下院を制しても、防衛費の増額は止まりませんでした。

上院では軍事費を7500億ドルにする法案が可決されているので、今後、両院の交渉で金額が決まる見込みです。

民主党が主導した下院でも軍事費が減らないのは、米国には「国防は大事」「国益を守るためには強い軍隊が必要」という共通認識があるからです。

中国の軍拡を見ても、防衛費をたいして増やさない自民党や、防衛費を下げようとする野党とは、大きな違いがあるようです。

(※トランプ大統領は、今後、「メキシコの壁」建設費も含めて、最終案の内容を上院案に近づけるべく、拒否権などを用いる可能性がある)

◆増え続ける中国の軍事費 20年で11倍

トランプ政権に入り、米国の軍事費は3年連続で増え続けています。

それは、中国の軍拡に対抗するために、米軍の再建が必要だからです。

中国の公表軍事費は、20年間で約11倍になりました。

1999年に1047億元だった軍事費は、2019年に1兆1899億元(=約20兆円)にまで増えたのです。

中国はGDP比1.3%しか軍事費を使っていないと主張していますが、米国防省は、その発表を信じていません。

そこには「研究開発や外国からの兵器調達などの重要な支出項目」が入っておらず、軍事支出は「公表国防費の1.25倍以上」あるとみているのです(※これは、米国防省議会報告書(2017年6月)をもとにした防衛省の見解)

中国の軍事費は透明性が低く、中国軍事研究家の平松茂雄氏は「国家財政支出のなかの国防費は、人件費、部隊の日常運用費、兵器・技術の取得費などの消耗性の支出であり、兵器・装備を研究・開発・生産する費用は含まれていない」(『中国の軍事力』)とも指摘していました。

これは、実額が公表値をはるかに上回る不透明な軍事費なのです。

◆同盟国にも「防衛費増額」を求めるトランプ政権

そして、トランプ政権は、NATO(北大西洋条約機構)加盟国に「GDP比で2%の防衛費負担」を求めています。

これは、大統領だけではなく、閣僚が訪欧するたびに訴え続けてきた重要議題です。

今まで、日本はこれを他人事のように見てきましたが、米中対立が本格化する中では、日本にも、その程度の防衛費の拠出が求められるでしょう。

GDPを増やすとともに、GDP比に占める割合を2%台にまで上げなければ、とうてい、中国の軍拡には対処できないからです。

◆世界では「GDP比2%」の防衛費を使う国は珍しくない

実際、GDP比で2%程度の防衛費を使っている国は、かなりあります。

(以下、ストックホルム国際平和研究所の調査〔2018年の比率〕)

・イギリス、台湾:1.8%
・豪州:1.9%
・フランスとベトナム:2.3%
・インド:2.4%
・韓国:2.6%
・シンガポール:3.1%
・アメリカ:3.2%
・ロシア:3.9%

世界で、GDP比2%の防衛費を用いる国は、珍しくありません。

◆安倍政権でも、日本の防衛費はたいして伸びていない

左派陣営は安倍政権が防衛費を増やしていることを批判しますが、実際は微増にすぎません。

同時に物価も上がっているので、実質で見ると、年1%程度にすぎないからです。

2014年から2018年までの防衛関係費(米軍・SACO関連経費を含む)は、名目値で3063億円増(伸び率は約6.3%)

しかし、同時期の物価は約2.1%上がっているので、実質伸び率は4年間で4.2%。

年間では1%程度になるからです。

◆防衛予算が増えない中で、米国兵器を買い続ける日本

日本の防衛予算は、3分の2以上が維持費で消え、3分の1で研究開発や装備の更新、新兵器の導入等を行っています。

【平成30年度の防衛予算の内訳】

・人件/糧食費:44.2%
・維持費等:23%
・装備品等購入費:16.6%
・基地対策経費:9%
・施設整備費:3.5%
・研究開発費:2.6%
・その他:1.2%

この中で、安倍首相はトランプ政権に対して、米兵器の購入額の増加を約束しました。

◆主権国家には自国内の防衛産業が必要

確かに、F35は必要ですが、今のお金の使い方には問題があります。

その一つは、予算が増えない中で米国兵器ばかりを買うと、防需を担う日本企業に払うお金が減り、防衛の生産基盤を維持できなくなるということです。

F2戦闘機の生産は止まっているため、新たな戦闘機の開発を軌道に載せなければ、F35を買っている間に国内の技術者が離散し、日本は「戦闘機の作れない国」になってしまう危険性があります。

また、国際政治アナリストの伊藤貫氏は、米国の兵器は「ブラックボックス」で管理されているので、もし、将来の大統領が「中国とは戦わない」と決めたならば、日本に売った兵器をすべて止めることが可能だとも指摘していました。

こうした現実があるので、フランスやスウェーデンは、米国と連携しながらも、長年、国産戦闘機の開発を続けてきました。

新型戦闘機の開発には「兆」の単位のお金がかかります。

そのためには、防衛予算の倍増が必要なのです。

◆防衛予算の倍増を訴えているのは、幸福実現党のみ

防衛予算の倍増は、日米同盟を維持するためにも必要です。

また、主権国家としての防衛体制を築くためにも必要です。

「防衛費を減らして福祉に回せ」と語る野党や、防衛予算の倍増を打ち出せない自民党は、こうした、日本の存亡をかけた問題から目を背けています。

幸福実現党は、真剣に日本を憂う人々の選択肢となるべく、妥協だらけの自民党では言えない正論を訴えてきました。

今後も、日本国民の生命と安全と財産を守るべく、幸福実現党は責任政党としての役割を果たしてまいります。

【参照】

・ロイター通信「アングル:次の米国防長官代行、中国脅威論者エスパー氏の横顔」(2019/6/20)
・日経電子版「米次期国防長官『中距離ミサイル開発を推進』INF失効にらみ」(2019/7/17)

・朝日新聞デジタル「米下院、国防権限法案を可決 共和党議員の賛成ゼロ」(2019/7/13)
・読売オンライン「米国防予算79兆円…権限法成立、中露に厳しく」(2018/8/14)
・SIPRI “Military expenditure by country as percentage of gross domestic product, 1988-2018″
・田村重信著『防衛政策の真実』(育鵬社)

・時事ドットコム「【図解・国際】中国国防費の推移」

・平松茂雄著『中国の軍事力』(文春新書)
・防衛白書(平成30年版)

・総務省「2015年基準 消費者物価指数 全国)(2019年(令和元年)5月分)
・防衛省「中国情勢(東シナ海・太平洋・日本海)」(2018年2月2日)
・チャンネル桜「【平成30年 年末特別対談】伊藤貫氏に聞く」(2018/12/30)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

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