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米国が台湾に新型戦車を売却 日本は何もしないのか

http://hrp-newsfile.jp/2019/3655/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆議会での立法に基づいた台湾支援

トランプ政権は、7月8日に、戦車や地対空ミサイルなどを含む22億ドル(約2400億円)の兵器について、台湾への売却を承認しました。

主な兵器は、イラク戦争などで活躍したM1A2エイブラムス戦車108両と、携帯式地対空ミサイル(スティンガー)です。

これは、台湾への武器売却促進などを定めた「アジア再保証推進法」(18年末成立)に基づいた措置です。

◆次は戦闘機の売却か

台湾は、中国の軍拡に対抗するために、米国から最新型のF16戦闘機(C/D)やエイブラムス戦車の導入を目指してきました。

戦車は中国軍の上陸を阻止するための装備ですが、空の守りを固める戦闘機がなければ、それを有効に使えません。

そのため、次は、戦闘機の売却が焦点となります。

オバマ政権はF16の売却を拒んだので、トランプ政権が戦闘機売却に踏み込むかどうかが注目されているのです。

◆拡大する中国空軍との戦力差

中国と台湾の空軍力を比べる時は、普通、近代化された戦闘機(第四世代型以降の戦闘機)の数を比較します。

この基準でみると、852機を持つ中国軍に対して、台湾軍は327機しかないので、大幅な差がついています(※1)『平成30年度 防衛白書』の数値)。

中国軍は旧型機も含めると1500機の戦闘機を持っており、中国東部と南部には600機が配置されているので(※2)、327機の台湾空軍では応戦しきれません。

中台で戦争となれば、1000発以上の短距離弾道ミサイルで基地や空港等が狙われ、他の戦区の戦闘機も応援にかけつけるので、台湾軍は不利な戦いを強いられます。

(※米国防総省の報告書によれば、中国は750~1500発の短距離弾道ミサイルを保有。旧型機でも、複数機で一機を攻めたり、敵機のミサイルを消耗させたりできるので、軽視はできない)

◆中国空軍は次々と新型機を投入

台湾空軍の主力は、冷戦後期に運用が始まった戦闘機が中心です。

(具体的には、F16の旧型版(A/B)144機、と国産戦闘機「蒋経国」128機、フランス製の「ミラージュ2000」55機 ※1)

しかし、中国軍は、ロシアからそれ以降の新型機(Su30やSu35)を大量に買い、国産戦闘機(J10やJ15、J16)も開発しています。

オバマ政権の頃から台湾軍は劣勢でしたが、中国との関係を重視し、米国は台湾に新型戦闘機を売りませんでした。

◆戦車だけではダメ。どうしても新型戦闘機は必要

中国軍が台湾を攻める時には、「足が早い」ものから順に攻撃を開始します。

まず、サイバー攻撃が仕掛けられ、その後に、1000発以上の短距離弾道ミサイルを撃ち込みます。

レーダー等の通信機能を麻痺させ、空港から飛び立つ前に戦闘機の破壊を試みます。

そして、次に制空権を巡る戦いが起きます。

前述の新型戦闘機は、ここで台湾軍が持ちこたえるために、どうしても必要な装備です。

制空権がなければ、いくら戦車があっても、イラク戦争のように、空からの攻撃で破壊されることは避けられないからです。

(※中国軍が制空権を得た場合、「対地攻撃や制海権の確保」⇒「海上封鎖」⇒「上陸作戦」を展開する)

◆冷戦期から激変した台湾情勢

これから、トランプ政権が台湾支援に踏み込むかどうかは、我が国にとっても、重大な意味を持っています。

台湾が中国の支配下に落ちれば、日本の海上交通路(シーレーン)が脅かされるからです。

クリントン政権以来、中国の「巨大市場」を重視してきた米国が対中抑止に転じた今、日本も、今後の対策を考えなければなりません。

そのためには、米国や日本が中国と国交を結んだ頃とは、地域の情勢が大きく変わっていることをよく理解する必要があります。

当時、米国は、以下の条件のもとに「経済関係を促進しても大丈夫だ」と判断しましたが、それがもう成り立たなくなったからです。

(※3:以下、平松茂雄著『台湾問題』を参照)

①1970年代の中国軍は台湾を攻撃できず、台湾には中国軍の侵攻を阻止する力があった ⇒今は真逆

②当時の中ソは軍事的に対立し、「北の脅威」があったため、台湾侵攻の余力はない ⇒今の中露関係は良好

③中国近代化のために日本や欧米との関係強化が不可欠 ⇒今の中国は自国技術での発展が可能になりつつある

今の中台関係を維持するためには、むしろ、中国に強硬路線を取り、台湾を支援しなければいけなくなりました。

◆日本版「台湾関係法」が必要

米国には、米中国交回復に対して、台湾を見捨てないために、議会が「台湾関係法」を制定しました。

これは、台湾軍を維持するための米国からの武器売却や、台湾有事での米軍出動の根拠となる法律です。

しかし、日本に、こうした法律は何もありません。

そのため、日本政府は「日本台湾交流協会」を通じてビザの発効を行い、人や船、飛行機の出入、経済関係の処理などを行っています。

しかし、これは民間機関であるため、安全保障に関わる案件は何もできません。

安全保障のために日台が情報を共有するなど、有事に必要な措置を取ることはできないのです。

そのため、幸福実現党は「日本版台湾関係法の制定」を訴えています。

日本と台湾が正式に外交を行うための根拠をつくり、そこには、FTA等で経済連携を強化することや、平和的ではない手段で台湾を支配しようとする試みに反対することを明記する必要があります。

そして、同盟国として米国の台湾支援に連携し、日本が自ら台湾との安全保障上の関係を強化することを盛り込むべきです。

米国は「一つの中国」を「認識」しながらも「台湾関係法」をつくったわけですから、日本がこうした法律をつくってはいけない理由はありません。

むしろ、40数年間も、台湾のために何も立法しなかった外交無策を反省しなければなりません。

【参照】

※1:防衛省『防衛白書 平成30年版』
※2:米国防総省 “Military and Security Developments Involving the People’s Republic of China 2019″
※3:平松茂雄著『台湾問題』(勁草書房)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

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