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中小企業を苦しめる「最低賃金の引上げ」 

http://hrp-newsfile.jp/2019/3613/

HS政経塾スタッフ 遠藤明成

◆主要政党が「最低賃金引き上げ」を公約

参院選が近づき、各党が公約を発表しています。

その中でも、最低賃金の引き上げは、多くの政党が好むテーマの一つです。

日本維新の会を除く、自民、公明、立民、共産の四党は、それぞれ、最低賃金について、以下の金額を提示しました。

・自民党:1000円を目指す(年率3%程度。全国加重平均)

・公明党:1000円超を目指す(2020年代前半を目途〔全国加重平均〕/2020年代半ばに半分以上の都道府県で達成)

・立憲民主党:全国どこでも誰でも時給1000円以上になるように引き上げ(※17年発表の「基本政策」)

・共産党:時給1500円を目指す(いますぐ、全国どこでも1000円。中小企業への賃上げ支援を1000倍に)

※維新の会は「最低賃金」という制度に否定的で、生活難には給付金で対応すべきという発想。

◆「強制賃上げ」党ばかり

自民党と公明党は、数年かけて時給を1000円に上げようとしていますが、立憲民主党と共産党は「一律1000円」をすぐに実現しようとしています。

つまり、立民と共産のほうが「強制力」による引き上げというカラーが濃厚に出ているのです。

そして、財源を富裕層と大企業に求める共産党だけが「賃上げ支援1000倍」と「1500円」という途方もない数字を掲げています。

この2党に労働政策を任せた場合、中小企業の負担にお構いなく、一気に「強制賃上げ」を行うので、人件費の拡大に耐えきれない企業が、バタバタと倒れていくでしょう。

◆日商と東商が「最低賃金引き上げ」について政府と各党に苦言

現在、政治家は「立法」という強制力をちらつかせながら、「私達が賃金を上げます」とささやき、国民の歓心を買おうとしています。

しかし、問題なのは、その賃上げが、経済の実態から見て、本当に可能なのかどうか、ということです。

それを見越してか、日本商工会議所(日商)と東京商工会議所(東商)は5月末に賃上げに対して「中小企業から大きな不安を訴える声が高まっている」と訴えました。

最低賃金の引き上げに対して、多くの中小企業が「設備投資の抑制」や「正社員の残業時間の削減」「一時金の削減」で対応すると答えたことを指摘し、「最低賃金に関する緊急要望」を発表したのです。

◆「3%以上の賃上げ」と「強制力」を用いた賃上げにダメ出し

その要望書では、「3%以上の賃上げ」と「強制力」を用いた賃上げに反対しています。

・経済情勢や中小企業の経営実態を考慮せず、政府が3%を上回る引上げ目標を設定することに強く反対

・中小企業の賃上げ率(2018年:1.4%)などを考慮し、納得感のある水準を決定すべき。3%といった数字ありきの引上げには反対

・強制力のある最低賃金の引上げを政策的に用いるべきではない。中小企業が自発的に賃上げできる環境を整備すべき

(※原文はやや読みにくいので、ある程度、平易な言葉に直しています)

◆「最低賃金1000円」になったら中小企業はどうする?

この要望書では現在、全国で874円の最低賃金が政府目標の通り、「年率3%」で数年後に1000円になった場合、約15%の大幅引上げとなり、企業にとって「一人あたり年間で約30万円の負担増」になると指摘していました。

30円~40円の引上げとなった場合に「影響がある」と答えた6割の企業の対応策(複数回答)の筆頭には「設備投資の抑制等」(40%)があがっており、それ以外には、人件費の削減案が目白押しでした。

・正社員の残業時間を削減する:27.8%
・一時金を削減する:23%
・非正規の残業時間・シフトを削減:21%
・正社員の採用を抑制する:17.2%
・非正規社員の採用を抑制する:13.8%
・非正規社員を削減する:9.2%
・正社員を削減する:3.2%

結局、別の形で給与減や社員削減が進むので、最低賃金の引き上げが必ずしも全体の賃金増に結びつかないことが見えてきます。

日商と東商の調査によれば、すでに中小企業の6割は「業績の改善が見られない中での賃上げ」をしており、それを続ける余力がなくなってきています。

8割の企業は賃上げ分の人件費を価格に転嫁できておらず、設備投資を抑えたり、他の人件費を削ったりするしかありません。

ここ7年間で63万社の中小企業が減ったことを踏まえ、この要望書は、「最低賃金の大幅な引き上げが地域経済の衰退に拍車をかける懸念」があると主張していました。

◆本来、あるべき賃金政策とは

日商と東商の調査を見ると、国民の歓心を買いたがる政治家と、賃金を支払う中小企業との間に、埋めがたい落差があることがわかります。

結局、数年かけて1000円を目指す自公政権の賃上げでも、日本の民間雇用の7割を担う中小企業を押しつぶす結果になりかねません。

これは、政治家が企業に自分たちの人気取りへの協力を強要しているだけです。

こうした危険性があるために、幸福実現党は、長らく「経済界への賃上げ要請や最低賃金の引き上げなど、政府による過度な民間への介入姿勢に反対」してきました。

また、最低賃金法には、根本的な欠陥があります。

それは、需要と供給によって決まる賃金に対して、全国で一律に最低額を決めた場合、不適合を起こす地域が出てくるということです。

最低賃金を強制的に高値で固定すると、企業は雇用増に尻込みするので、それがなければ職につけた人が失業者になるという逆説が発生します。

前掲の中小企業の返答に「採用抑制」が並んでいたことは、それを裏付けていますし、これは経済学的にも理にかなっています。

そのため、幸福実現党は「最低賃金法の廃止」まで政策に入れました。

これは、2012年に日本維新の会が世の批判に恐れをなして公約から撤回した政策でもあります(結局、「市場メカニズムを重視した最低賃金制度への改革」と書き直した)。

しかし、幸福実現党は、そのようなことはしません。

立民と共産は中小企業の負担を無視した賃上げを主張し、自公政権は「国民は愚かだからわかるまい」とバカにして、中小企業を苦しめ、全体の給料増にもならない公約を並べました。

実現党は、そうした「強制賃上げ党」の数々とは一線を画し、本当の適正賃金が実現する雇用政策の実現を目指してまいります。

【参照】

・自民党「令和元年政策BANK」
・公明党「2019参院選 重点政策5つの柱」
・立憲民主党「基本政策」
・共産党「2019参院選 HOPE is 明日に希望が持てる政治に」・日本商工会議所「最低賃金に関する緊急要望(概要版)」
・同上「最低賃金に関する緊急要望(本文)」
・同上「最低賃金引上げの影響に関する調査結果」
・J-CASTニュース「維新の会、「最低賃金制」を「廃止」から「改革」に修正」(2012/12/5)

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

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