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「賃金」「労働時間」に国家は介入すべきか

http://hrp-newsfile.jp/2019/3476/

幸福実現党 山形県本部統括支部長 城取良太

◆官製春闘は国家社会主義的

安倍首相就任から5年間続いた「官製春闘」が大きな転換点を迎えつつあります。

昨年5月に経団連会長に就任した中西宏明会長は国家介入型のベースアップ(ベア)に反発、米中の貿易摩擦や英国のEU離脱等の世界的な経済リスクや、経営陣の「ベア疲れ」に配慮し、従来通りの自律的な労使交渉をベースとした春闘に転換を図りました。

その結果、各社におけるベアは前年水準を軒並み大きく割り込んでいます。

安倍政権はデフレ脱却を図る一環として、労使介入型のベアを実施してきた経緯がありますが、昨年度は「賃上げ率3%」といった異例の数値目標まで課しました。

ベア介入は財政負担を生まずに、国民に広くに好感を生むという政府の考えはあるでしょうが、「労使自治」という原則から考えれば、国家社会主義的である点は否めません。

それに対し、消費増税や不透明な景気動向に備えて、一度上げると極めて下げづらく、固定費増大につながるベアに慎重なのは、経営側として至極全うな考えだと言えます。

◆労働時間を規制して生産性は高まるのか?

さて、来月から「働き方改革関連法案」が施行され、多岐に渡って労働環境の変化が予想されますが、「官製春闘」と同様、現場感覚とはかけ離れた内容となっています。

その中心が「労働時間」に関する改革です。

今までは「36協定(労働基準法36条)」による労使合意があれば、どれだけ働かせても罰則(行政指導はあり)は科されませんでした。

これが4月以降、年間最大720時間の残業上限が法制化され、抵触した場合は企業側に6か月以下の懲役、または30万円の罰金が科されるようになります。

この規制の趣旨は、慢性化する長時間労働を国が取り締まることで、生産性を高め、過労死等の健康被害から労働者を守るという点にあるようです。

しかし現場からは、部署内での業務量の増加を管理職が吸い込まざるを得なくなり、本来のマネジメント業務が疎かになる事で、逆に生産性は低下するのではという心配の声はあります。

また、ある調査で60%を超える新入社員が「(一時的には)長時間になろうとも意欲的に挑戦したい」と答えている中、彼らの意欲と成長の機会を奪う結果にならないかという危惧もあります。

◆労働時間を規制して労働災害は減るのか?

1か月80時間以上の残業が「過労死ライン」と呼ばれ、こうした残業が慢性的に続いた場合、発症との関連性は確かに強くなると統計的には考えられます。

一方、実際の労災支給の原因で最も多いのは「仕事量・仕事内容の大きな変化」と共に、「嫌がらせ、いじめ」、「悲惨な事故、災害の経験など」が同数程度挙げられ、一概に「長時間労働」が諸悪の根源とは言えないところもあります。

また、今回の改革で「産業医・産業保健機能の強化」がしっかり盛り込まれており、あえて労働時間を法律で規制せずとも、対応できるのではないかということも言えます。

2017年度の年間総労働平均時間の国際比較(OECD)を見ても、日本が1710時間なのに対し、アメリカ1787時間、イギリス1681時間、イタリア1723時間、韓国2024時間と、日本が飛び抜けて長時間労働という事実は決してありません。

このように、現場の実態と合わない、国による一律的な労働時間の「総量規制」の強化が、生産性の向上と労働者の健康を守ることにつながるのかは極めて疑問です。

◆更なる労働時間の規制強化は日本社会に悲劇を招く?

「働き方改革」の中には、シニア雇用の促進や、一定以上の年収を得る知的労働者は労働時間規制の対象から除外する「高度プロフェッショナル制度」など、今後の日本経済にとってプラスになるものもあります。

一方、「同一労働同一賃金」のもと、正規・非正規の平等化を図ろうとする流れに関して、先進国で最も解雇規制が強く、雇用調整が難しい日本では、企業側から見た非正規採用のメリットを失わせ、逆に失業率を高めるとも考えられます。

日本経済が飛ぶ鳥を落とす勢いだった約30年前、欧米諸国から日本企業の労働時間の長さが不当競争、社会的ダンピングと難癖をつけられ、欧米先進国並みの年間1800時間を目標と強いられたのが、1987年の労基法改正であったことを忘れてはなりません。

「失われた30年」の発端の一つとなったのが、前回の法定労働時間の見直し(週48時間→週40時間)であったとしたら、今回の規制強化が日本経済に更なる悲劇を招く可能性もあるのです。

そもそも、労働時間一つとっても「残業は非効率だからさせない」「量が質を生むから長時間働ける人材が欲しい」など経営者の考えは様々で、それは労働者の立場からも同じはずです。

あるべき労働環境は一律に国が価値判断し、規制すべきものではありません。

企業と労働者の自由意思に任せた労働市場の創出こそ、「人財」「天職」との出会いを無数に生み出し、日本社会の豊かさと幸福感を最大化させる道ではないでしょうか。

しろとり 良太

執筆者:しろとり 良太

幸福実現党広報本部

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