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米朝首脳会談――戦後史の変動にどう向き合うか

http://hrp-newsfile.jp/2018/3391/

幸福実現党 政調会外交部会副部会長 彦川太志(情報分析担当)

◆米朝首脳会談におけるトランプ大統領の計算

6月12日、シンガポールで米朝首脳会談が開催されました。

北の非核化に向けた具体的ロードマップが示されない中、トランプ大統領が北朝鮮に対して「体制保障」を与えたことで世界中に衝撃が走りました。

関連する発表や報道を良く見ると、北朝鮮の非核化に向けたトランプ大統領の冷静な計算が背景にある様子が浮かび上がります。

◆金正恩の「非核化」をバックアップするトランプ大統領の「体制保障」

まず、トランプ大統領が北朝鮮に提示した「体制保障」とはどのようなものだったのでしょうか。米朝会談が行われた2日後、韓国で開催された日米韓外相三者会談の共同声明を見てみましょう。

韓国の康京和(カン・ギョンファ)外相は次の様に発言しています。

「トランプ大統領が北朝鮮に体制保障を与える間、金委員長が確固としたゆるぎない半島の非核化完了に向けた関与を行うことを承認した、シンガポール共同声明の採択を我々は歓迎する。」(※1)

韓国外相の発言からも分かる様に、トランプ大統領が与えた「体制保障」とは、金正恩が非核化を実施するための「保障」であり、決して北を「核保有国」と認めたり、自身の政治的なパフォーマンスのために行った取引ではない事が分かります。

◆トランプ大統領が「人権問題」に踏み込まない理由

米朝会談に関する世界のもう一つの関心事は、拉致被害者や北朝鮮国内の強制収容所の存在と言った「人権問題」の扱いについてでしょう。

トランプ大統領自身、首脳会談直後の記者会見で、「あなたは北朝鮮の体制を正当化する事で、(人権侵害を受けている)彼らを裏切るのか」などと厳しい質問を受けていますが、トランプ大統領はその様な意図はないと否定しつつ、今やるべきことは「北の核開発の停止」であると回答しています。(※2)

つまり、「北朝鮮問題の解決には順序がある」という事です。

どういうことかと言うと、北朝鮮の「人権問題」を追及すると言う事は、北に「情報公開」を突き付ける事に他なりません。

「非核化」と言う武装解除と「情報公開」を北に同時に求めた場合、かつて「ペレストロイカ(改革)」と「グラスノスチ(情報公開)」を同時に進めた結果、体制改革をソフトランディングさせることが出来ず、「守旧派」の反発や軍のクーデターを引き起こしてしまったソ連のように、かえって北朝鮮に大混乱を引き起こす可能性が予想されます。

トランプ大統領が米朝共同声明で人権問題に強く触れなかったのは、このあたりの事情が背景にあるものと推察します。

安倍政権としても、この点を良く考慮して北朝鮮問題にコミットしていくべきだと言えるでしょう。

◆金正恩は北の「経済開国」を進めたい

米朝会談最大の関心は「果たして金正恩は信用できるのか」と言う点に集中すると言えますが、これは米朝対話に動き出した「金正恩の狙い」を推し量ることが困難であったことに起因するのではないでしょうか。

今から振り返れば、米朝首脳会談に踏み切った金正恩の「狙い」が、北の「経済開国」の道筋をつける事にあった事は明白です。

実際、金正恩は2018年4月の党中央委員会で「経済建設」へのシフトを表明し、翌5月16日には代表団を中国に送り、中国の「改革開放」に学び、経済成長を進める意思を明らかにしています。(※3)

ちなみに、米国のポンペオ国務長官やボルトン補佐官が非核化された北朝鮮への「民間投資」について言及したのが5月14日である事を考えると、5月中旬時点で北の「経済開国」の在り方を巡って米中の綱引きがあったのかも知れません。

◆日本は北朝鮮の「開国」を契機に米露協調を実現せよ

もちろん、これまでの北朝鮮の歴代指導者の振る舞いを考慮すれば、「経済開国」に向けた金正恩の意図に対して懐疑的にならざるを得ないでしょう。

しかし、「金正恩は信用できるのか」と言う懸念を率先して打ち消しているのは、他ならぬトランプ大統領です。

米国の大統領が、自身の「信用」を投じて北朝鮮に「保障」を与えようとしている事について、日本は真剣に受け止めるべきではないでしょうか。

また、今後、露朝首脳会談の開催が9月に予定されると共に、米露関係が急速に接近している国際情勢を考慮すれば、日本は北朝鮮の「武装解除」と「経済開国」の支援を通じて、米露協調を実現する「仲介者」として重要な役割を果たす事が出来るものと思われます。(※4,5)

そのような情勢を考慮すれば、日本は北朝鮮と言う先軍政治国家の「武装解除」を着地させる事を先決とし、北を徐々に自由主義圏の一員に抱き込む過程で拉致問題の解決を図るべきであり、その際に必要な支援を行う事に躊躇してはならないと考えます。

(※1)2018年6月14日 Department of State Press Availability With Korean Foreign Minister Kang Kyung-wha and Japanese Foreign Minister Taro Kono
(※2)2018年6月12日 White House Press Conference by President Trump
(※3)2018年5月17日 解放軍報 習近平会見朝鮮労働党友好参観団
(※4)2018年6月14日 President of Russia Meeting with Chairman of the DPRK Supreme People’s Assembly Presidium Kim Yong-nam
(※5)2018年6月16日 TASS Trump to meet with Putin in Europe in July – newspaper

彦川 だいし

執筆者:彦川 だいし

HS政経塾第1期卒塾生/党政調会・外交部会

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