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高等教育無償化

http://hrp-newsfile.jp/2017/3230/

HS政経塾6期生 須藤有紀

◆「みんなにチャンス!構想会議」発足

安倍首相は6月19日、通常国会閉会を受けて官邸で記者会見を行い、「みんなにチャンス!構想会議」を7月に発足させると表明しました。

これは1億総活躍社会実現に向けた人材育成への投資を強化するため、「人づくり改革」を検討する有識者会議であり、担当相も設置すると言います。(6月19日産経新聞Web版)

安倍首相が年内国会提出を目指している憲法改正案のうち、目玉のひとつが「高等教育無償化」です。

この高等教育無償化も「人づくり改革」の一環であり、まさに「みんなにチャンス」を与えるための政策として位置づけられるようです。

◆STOP!安易な無償化

結論から申し上げるならば、高等教育無償化はやめるべきです。 

詳しくは、7月1日発行の和田みな執筆による、「教育の一律無償化は憲法改正に盛り込むべきではない」もご参照頂きたいのですが(http://hrp-newsfile.jp/2017/3217/)、高等教育を無償化するなら、奨学金の拡充をした方が良い、というのが私の意見です。

◆日本の奨学制度

現在、日本の奨学制度で代表的なのは、日本学生支援機構(JASSO)による奨学制度です。財源は基本的には返還された奨学金ですが、国からの支出によっても賄われています。

JASSOが提示する奨学金には、貸与型(無利息、利息付、利息付で一時増額の3種類)と、今年度から開始した給付型(主に貧困層の学生に対し、月2~4万支給)の大きく2種類があります。

奨学金の返済義務を負うのは学生本人であるため、借りる際には通学している高校での成績や、学習意欲などが考慮されます。

例えば、無利息貸与型奨学金を希望する場合、高校1年生から奨学金申込時までの成績平均が、3.5以上(5段階評価)なければいけません。

また、JASSO以外では、都道府県や自治体が行っている「沖縄県国際交流・人材育成財団」や「東大阪市奨学金」、企業等が主催する「コカ・コーラ教育・環境財団」などの奨学制度があります。

しかし、日本の奨学制度は外国に比べれば、まだまだ多様性に乏しく、利用しやすいものとは言えません。
 
特に、給付型奨学金は種類や金額が少ない点が指摘されています。

◆アメリカの奨学制度

それでは、他国の奨学制度はどうなっているのでしょうか。

奨学制度が充実している国として、代表的なのはアメリカです。

日本の奨学金は、多くの場合返済義務や金利のある「loan」ですが、アメリカの奨学金は、普通返済義務がありません。

そして、「どこから支払われるか」で、以下の通り分類されます。

・federal(連邦政府が提供する奨学金・給付金)
・non federal(連邦政府以外が提供する奨学金・給付金)
・state(各州政府が提供する奨学金・給付金)
・institutional(組織が提供する奨学金・給付金)
・employer aid(雇用者への援助として企業が提供する奨学金・給付金)

連邦政府は「学生経済支援政策」を打ち出しており、ペル奨学金を始めとする大規模な給付奨学金、学生ローンなどの貸与奨学金のほかに、大学内や公共機関でのアルバイトを通じて報酬を出すワークスタディや、内国歳入庁の所轄する教育費の減税措置などを行っているようです。

◆アメリカの大学の奨学金制度

また、その他に各大学が学内で行っている奨学制度も充実しています。

2008年には、ハーバード大学が年収6万ドル以下の家庭の学部生に対し、年間3.8万ドルの学費を免除することを決定。

年収6万~18万ドルの家庭も、「学費の拠出は最大で年収の10%まで」としました。

また、スタンフォード大学も年収6万ドル以下の家庭の学部生に対し、学費と寮費、計5万ドルを免除。

年収10万ドル以下の家庭には、学費だけ免除する方針を打ち出しています。
 
各大学は、莫大な寄附基金を資金源に、資産運用を行っています。そのため、「お上頼み」ではない独自の奨学金制度が実現しているのです。

◆奨学金以外の学費軽減方法

上述した通り多様な奨学制度があるアメリカですが、奨学制度以外に学費を軽減する方法も存在します。

それが、Advanced Placementに代表される「高大接続システム」です。

簡単に言えば高校に通いながら大学の単位を先取りできる制度であり、大学卒業までの期間を短縮することが可能です。

アメリカの高校が単位制を採用しており、飛び級を容認しているために行える事ではありますが、才能ある学生を伸ばす上で有効な手段なのではないでしょうか。

◆「無償化」ではない「チャンスの平等」を!

ただ一律に高等教育を無償化したからといって、皆に平等にチャンスが訪れるわけではありません。むしろ更なる教育の質の低下を招きかねません。

真にチャンスの平等を実現し、才能ある学生を伸ばそうと考えるならば、無償化で3兆円もの予算をバラ撒く前に、給付型奨学制度のさらなる充実や、教育制度の見直しを図るべきではないでしょうか。

日本の更なる繁栄のため、教育の向上は不可欠です。

社会主義的平等主義を捨て、発展的観点から「人づくり改革」を行って頂きたいと思います。

【参考】
米国製エリートは本当にすごいのか? 著:佐々木紀彦 出版:東洋経済新報社
アメリカの才能教育 著:松村暢隆 出版:東信堂
日本学生支援機構HP、調査資料等
「米国の奨学金政策をめぐる最近の動向」国立国会図書館レファレンス 平成27年8月号
著:国立国会図書館調査及び立法考査局次長 寺倉憲一
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_9484228_po_077502.pdf?contentNo=1

須藤有紀

執筆者:須藤有紀

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