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日本国家を壊す「発送電分離」の危険性【第1回】

文/幸福実現党・岐阜県本部副代表 加納有輝彦

◆「発送電分離」

本年3月、電力システム改革の第3段階にあたる「発送電分離」を2020年4月に実施する法案が閣議決定されました。

しかしこの発送電分離は、日本国家を打ち壊す破壊力を持つものであると非常に危機感を持っています。ここに2回に分けて問題提起をし、発送電分離の見直し論を喚起したいと思います。

◆電力自由化(発送電の分離)後、電気料金が2倍に(イギリスの事例)

イギリスで始まった電力自由化とは、国営電力会社の分割民営化を機に、送配電事業を分離し、公共の道路、国道のような役割として公的な管理下に置き、ここに発電と小売りが自由に新規参入できるようにし、料金も自由に決められるようにしたものです。

送電線や配電線の使用料には、「託送料金」という規制料金が適用され、規制料金を払うことによって発電会社や小売り会社が送配電線(道路)を使うことができます。

入口と出口の発電、小売りの部分では自由な料金が認められ規制はありません。

一言でいえば、発送電を分離して送電線を開放すれば、自由に誰もが発電・小売り事業に参入するようになり、経済活動が活発になると目論んだものです。

このような自由化をイギリスでは、サッチャー政権の時に開始しました。

イギリスは第二次世界大戦後に電力が国営化されていたため、旧ソ連の国営企業のように非効率が目立っていました。

古い設備を使い続け、労働争議が多発し、停電が頻繁に発生するなど、それはひどいものでした。

労働組合などの反対により最も困難とされていた電力民営化を公約に掲げ、1987年に大勝したサッチャー保守党政権は、1990年に国営電力会社を分割民営化し、これにより競争環境を作り出しました。

同時に、大口需要家に対する小売も自由化します。

小売の自由化は99年に一般家庭を含む全需要家が対象となり、2002年に小売価格の規制が完全に撤廃されました。

イギリスの電気料金は自由化後下がりました。その理由は、旧式の国産設備を用いて、石炭産業保護のためコストが高い国内の石炭を利用していた発電所から、北海からの産出量が増加していた天然ガス火力に設備が切り替わったためと言われています。

自由化後、石炭火力発電所と炭鉱が閉鎖されていきました。天然ガスは90年代後半から輸出を行うほど生産量が増えます。この間、電気料金は下がりました。

ところが、2005年を境に、電気料金が急上昇します。北海からの石油・天然ガスの生産量が減少したことが一つの理由です。2004年と比較すると現在の電気料金は約2倍になっています。

◆発送電分離による電気料金上昇は不可避

電気料金急上昇のもう一つの理由は、電力自由化における宿命といえるものです。

それはピーク時の時だけ使う電源の問題です。ピーク時のみ稼働するだけの発電設備は、非常に稼働率が低い設備です

自由化直後は、国営企業が持っていた古い発電設備が残っていたのですが、その後、維持費のかかる古い設備は次第に廃止されていきました。設備が廃止されたら、本来は新しい設備を新設しなければなりません。

ところが、発電と送電を分離したため、発電会社が単体での短期的な利益を追求するようになり、新しい設備に投資をしなくなりました。自由化された後は、設備投資が簡単には出来なくなったのです。

自由化した市場では、投資判断がどうしても短期的になります。ピーク時だけに稼働するような電源のコストは非常に高くなりますが、その電気を必ず買ってもらえる保証はなく、発電会社にとっては、ハイリスクの投資になってしまいます。

また、発電会社にとっては、努力して発電所を増やすよりも、発電所が少ない方が、卸電力価格が高くなって儲かるという、より本質的な制度上の欠陥もあります。

かといって国営なら十分な設備ができるかというと、そうではありません。

イギリスは国営の時代には政策的に国産の設備や国内の石炭を使うことを要求され、設備が老朽化してもなかなか交換せずトラブルが続出するなど、電力の安定供給を脅かすような問題が山積していました。

サッチャー元首相はこれを改革したかったのです。

大事なことは、国民の利益になる長期的な設備投資を、民間企業の力で経済効率的に進めることです。

(第2回に続く)

加納 有輝彦

執筆者:加納 有輝彦

岐阜県本部政調会長

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