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相続税改正から考える私有財産の重要性

文/HS政経塾4期生 幸福実現党・大阪本部副代表 数森圭吾

◆2015年 相続税の増税

2015年1月1日、改正相続税がスタートしました。今回の改正における大きな変更点は基礎控除額(非課税枠)の縮小です。

従来の相続税は基礎控除額が大きかったために、「一部の資産家のみに課されるもので、一般庶民には無縁の話」と思われている方も多いのではないでしょうか。

従来の基礎控除額の算出は「5000万円+(1000万円×法定相続人数)」。たとえば、夫婦と子供2人の世帯で世帯主が亡くなって相続が発生すると、法定相続人は、世帯主の配偶者と2人の子供の3人で、基礎控除額は8000万円となり、家・建物、現金、預金、株など遺産の合計が8000万円以下なら相続税はゼロとなります。

しかし、今回の改正において基礎控除額が「3000万円+(600万円×法定相続人)」に引き下げられました。

相続人が配偶者と子供2人の場合、基礎控除額は4800万円。これは土地や家を所有し、退職金を得た一般的な多くの人が課税対象となる額ではないでしょうか。

◆課税対象者の倍増

財務省の発表によると、今回の改正によって相続税の対象者は1.5倍に拡大すると言われていますが、特に東京や神奈川など地価の高い地域においては深刻な問題となりそうです。

2014年の1年間では、都内で亡くなった方のうち、約9,400人(9%)が相続税の課税対象となっていましたが、改正後は約19,700人(19%)と倍増する見込みです。

◆相続税の課税根拠

憲法第29条第1項は「財産権はこれを侵してはならない」と規定して、財産権を保障しています。つまり相続税を肯定するには、国家が財産権をどこまで制限することが可能かということが問題となります。

過去の政府税制調査会(内閣総理大臣の諮問に応じて、租税制度に関する基本的事項を調査審議する審議会)が示す相続税の課税根拠を要約すると、大きく以下のようなポイントがあげられます。

(1)富の集中排除(富の再分配)
(2)資産引継ぎの社会化
(3)所得税補完・故人生前所得の清算課税

(1)は豊かな人の財産を貧しい人に分け与えることで格差を是正するのが目的です。
(2)は近年は核家族化が進み、社会保障に頼る人が増えているため、資産を社会に戻すべきだという考えが前提となっています。
(3)は故人が生きているときに取れなかった税金を相続のときに取ろうという考えが前提となっています。

(1)、(2)は平等の精神が基盤となっており、(3)は財源確保の狙いが根底にあると考えられます。

しかし、この相続資産は「私有財産」です。

今回の改正によって相続税の最高税率も50%から55%に引き上げられましたが、これは個人が働きながら所得税などの税金を真面目に納め、その結果残った私有財産の半分以上を、さらに税金として納めなければならないケースが出てくるということです。

これは「二重課税」という意味で問題であると同時に、重い相続税を課すこと自体が、私有財産を否定する考え方であると言えます。

◆私有財産の重要性

20世紀を代表する自由主義の思想家であり、自由主義経済学の大家であるフリードリヒ・ハイエクは以下のように述べています。

「私有財産制は、財産を所有する者だけでなく、それを所有しない者にとってもそれに劣らず、最も重要な自由の保障である」

「私有財産を持っている人が自由なおかげで、私有財産を持っていない人まで自由でいられる」

歴史的に、社会主義国などでは私有財産は認められず、国家が強大な権力を持ち、個人の自由や経済活動が制限されていました。

このような恐ろしい権力を国家や官僚に持たせないために、私有財産が必要であるとハイエクは述べています。個人が自由な経済活動、自由な生活を得るためには私有財産の肯定が不可欠なのです。

◆重税路線からの脱却を

日本の相続税は結果の平等に重きを置き、格差是正のためという建前で、二重課税の問題にふれることなく国民から税金を巻き上げているというのが実態と言えます。

これは日本が実質的に、私有財産を認めない社会主義的な構造に陥っていると言えるのではないでしょうか。近年「格差」の問題が多く取り上げられています。確かに戦後日本は経済成長のなかで格差が広がったのも事実ですが、国民全体の生活水準は明らかに数十年前と比較して向上しています。

日本政府は安易な平等に陥ることなく、重税路線から脱却し、真剣に経済成長を目指すべきだと考えます。「豊かな者はより豊かに、貧しき者も豊かに」というように、国民の財産を増やすことこそが日本再生への道ではないでしょうか。

数森圭吾

執筆者:数森圭吾

幸福実現党 大阪府統括支部長

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