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TPPと畜産業の発展について――牛肉編

文/HS政経塾4期生・鹿児島県本部 副代表 松澤 力

◆TPP交渉 最終局面へ

2月12日、甘利経済再生担当相は衆参両院本会議の経済演説で、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)に関して「交渉の終局が明確になりつつある」とし、TPP交渉が最終局面に入ったとの認識を示しました。

日本の畜産品関税を巡るTPP交渉は、牛肉の関税を10年以上かけて現在の38.5%から9%程度に下げる方向になりつつあります。

また豚肉は、最も安い価格帯にかける1キロ当たり482円の関税を50円程度にする調整が続いています。いずれも、輸入が急増した際には、一定水準まで関税を戻す「緊急輸入制限(セーフガード)」を導入する方針です。(2/4 毎日新聞)

政府は、輸入制限を発動する基準となる輸入量について、米国などの国別ではなく、参加国全体で定める案を検討しています。

牛肉は近年、年間50万トン程度を輸入しており、そのうちオーストラリアからは約30万トン、米国からは約10万トンなど、ほとんどの牛肉の輸入をTPP交渉参加国が占めています。

輸入制限の基準輸入量は、近年の輸入実績を一定程度上回る、全体で50万トン程度が目安となる見込みです。

TPPについて、日本政府は様々な交渉を進めてきました。また今年1月15日には、日本とオーストラリアでEPA(経済連携協定)が発効され、オーストラリア産牛肉を輸入するときの関税が下がるなど、牛肉の貿易自由化の流れが前進している状況です。

◆冷静に考えるべき、国産牛肉へのTPP影響

農林水産省の試算では、関税撤廃により輸入牛肉と国産牛肉の価格競争で、国産牛肉の生産減少額は、肉質3等級以下が約3,700億円、品質の高い肉質4等・5等級が約800億円で、国産牛肉減少額を合計約4,500億円と試算しています。

国産牛肉生産額の約4,600億円のほとんどが、非常に大きな影響を受ける試算です。

ただ、キャノングローバル戦略研究所の山下研究主幹は、異なる試算をしています。

注目しているのは、1991年に輸入牛肉関税を70%から、ほぼ半分の38.5%に削減したときのデータです。実は、輸入牛肉の関税削減後も、和牛生産量は拡大しています。(2003年度 137千トン⇒ 2012年度 171千トン)牛肉を自由化して以降も、日本の牛肉業界の方々は肉質を良くする努力・工夫を続けてこられました。

そのため、品質の高い和牛や交雑種は、輸入牛肉とは競合しないとみられています。品質の低い国産牛肉の一部は影響があるとみられていますが、TPP影響は限定的に考えられています。

山下研究主幹は、TPPによる国産牛肉の減少額を約500億円と試算しています。また、混合飼料関連の関税撤廃が実現すれば、国産牛肉の飼料コストが10%ほど削減される見込みです。

TPPの影響については非常に感情的な議論となるケースもありますが、やはり冷静に考え、過去のデータやTPPのメリットについても、しっかりと目を向ける必要があると考えます。

◆極上和牛の大量生産に成功「農業生産法人のざき」

国産牛肉へのTPP影響額の試算に大小はありますが、牛肉の貿易自由化の流れの中で、やはり畜産業へ高い国際競争力が求められていく方向は避けられない状況です。

そのような状況の中で、極上和牛の大量生産に成功している企業があります。その企業とは、先日のカンブリア宮殿(テレビ東京)でも紹介された「農業生産法人のざき」という会社です。私の地元、鹿児島県薩摩川内市にある企業です。

この企業では、日本で初めて「のざき牛」という個人の名前をブランド名にした牛肉を売り出し、東京・恵比寿の外資系高級ホテル・ウェスティンの最上階にある鉄板焼店で絶大な人気を得るなど、国内外の小売店や飲食店で幅広い支持を得ています。

東京食肉市場 牛肉コンテストでも、最高賞を史上初の3回受賞しています。それだけ品質の高い牛肉を、「のざき」では、わずか15人で一般的な肥育会社の100倍近い4,800頭もの和牛を生産しています。

この企業の非常に優れた取り組みは、大きく3点あります。

1点目は、徹底的に効率化された肥育法です。牛の飼料作りや糞の清掃など、日々の負担の重い作業には、専門業者を積極的に導入して従業員の負担を軽減しています。また、牛舎を工夫し、飼料を牛舎内で運ぶ必要の無いつくりにしています。

2点目は、牛にストレスを与えない肥育法です。従業員は、飼料や清掃などの作業が軽減した分、担当の牛の変化を見逃さない仕事に力を入れています。

体調の悪い牛を早期発見したり、他の牛に攻撃されて餌を十分に食べれていない牛を発見して牛舎を入れ替えるなど、できる限り牛のストレスを軽減して品質の高い牛を育てています。

3点目は人材育成です。社員の平均年齢が25歳と、大変若い社員が多い会社です。それにも関わらず「のざき」では、社員一人当たりに牛400頭(3億円相当)の肥育を任せています。

任せられた社員は、担当の牛を立派に育て上げるため、互いに日々切磋琢磨して育て方の工夫を続けています。その日々の仕事の中で人材育成が着実に進み、品質の高い牛肉生産の体制が維持されています。

このような取り組みにより「のざき」では、高品質の牛肉を安く生産し、海外への輸出も加速させています。香港への輸出量は年間約100トンに上り、和牛の販売量は「のざき牛」が1位となっています。

今後は、輸出のさらなる拡大に向けた世界戦略を検討しています。

◆日本の畜産業 さらなる発展へ

日本の牛肉生産は、後継者不足とも言われていますが、まだまだ可能性は眠っていると思います。御紹介した「農業生産法人のざき」のように、企業・組織の創意工夫で大きな発展が可能な産業です。

これからの日本の畜産業が、国際競争を勝ち抜いていくには、やはり企業参入や経営規模の拡大推進は避けて通れない部分であると考えます。

畜産業に携わっていらっしゃる方の収入の不足分を、補助金で補填する発想だけではなく、政治と民間の方々との知恵を結集し、強い輸出産業として、畜産業に従事される方々の収入を上げていく方向で政策を進化させていくことが強く求められます。

松澤力

執筆者:松澤力

幸福実現党公認 薩摩川内市議会議員 HS政経塾4期生

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