このエントリーをはてなブックマークに追加

対ロシア包囲網ではなく、対中包囲網の形成を!

文/HS政経塾スタッフ・遠藤明成

◆ロシア包囲網づくりを進める欧米主要国

プーチン大統領がクリミア併合を決めた日(3/18)に、アメリカはオランダ・ハーグにて24日に開催される核保安サミットに合わせて、ロシアを除いた日英仏など6ヶ国(G7)を首脳会談に招待すると発表しました。(朝日朝刊3/20)

通常、G8首脳会談には、アメリカ、日本、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダ、ロシアの首脳が集まりますが、米国は、ロシアを除外した「G7」会談開催を意図しており、イギリスのキャメロン首相も「ロシアがこれ以上の措置を取ればG8永久追放を議論すべき」と発言しました。

欧米主要国は、対ロシア包囲網をつくり始めているのです。

◆冷戦期の戦争と「ウクライナ危機」の違い

ウクライナ危機に関する報道では、「第二の冷戦の始まり」とよく言われますが、必ずしも、こうした見方は専門家たちに共有されていません。

読売新聞のインタビューで、アメリカのブルッキングス研究所・米欧センターのフィオナ・ヒル氏は、プーチン大統領が、西側とは「非常に異なる価値観を持っている」ことを認めつつも、現在の危機を「イデオロギー対立」と見る情勢判断を否定し、ロシアは、「周辺国を掌握し続け、国家再興を果たすこと」を目指していると答えていました。(読売朝刊3/19)

冷戦期には、朝鮮戦争やベトナム戦争、キューバ危機など、イデオロギーを背景にした戦争が「全世界各地」で起きましたが、今回の戦いは「ロシアと周辺国」との地域紛争なのです。(今のロシアが獲得を目指しているのは地域覇権であり、世界の覇権ではない)

◆欧米とロシアの間にある現在の日本の立ち位置とは

菅官房長官は、18日に、「G7のなかの一つとして足並みをそろえしっかり対応する」と述べ、ロシアに対して、「ビザ緩和協議の停止や、新投資協定や宇宙協定など」の締結交渉の開始凍結の意を表明しました。(ロイター通信3/18)

世界の主要国の動きを見ると、アメリカやEU諸国はロシア政府関係者の資産凍結等の制裁を打ち出し(ロイター通信3/18)、中国はロシア擁護の側に回り、インドは中立の立場を守っています。(産経3/20)

アメリカとの同盟関係がある日本はインドのように中立の立場を取り難いのですが、かといって中国に加えてロシアまで敵に回すのは賢明ではありません。

そのため、現在の安倍政権は、北方領土返還交渉等も念頭に置き、「弱い制裁」の段階に止めているわけです。

◆日本に必要なのは、長期的な対ロシア外交戦略

G7首脳会談では日本に制裁強化が要請される見込みですが、この判断には長期的な視野が必要です。

今後、短期的には欧米諸国が主導する対露制裁の強化が一つのトレンドになるでしょうが、過去の経済制裁の歴史を見る限り、それが長く続くとは考えにくいからです。

▽例1:米国はインドが98年に核実験をした後の経済制裁を01年に解除
(9.11以降の国際情勢の変化のため。05年には米印原子力協定が成立)

▽例2:米国は天安門事件(89年)後に中国へ経済制裁。しかし94年に元安・ドル高政策で緩和路線に転向。(公式には01年に制裁終了)

今後、プーチン大統領が再選されれば2024年まで政権が続きますが(二期12年)、経済制裁は同政権の寿命の半分も続かないかもしれません。日本は、こうした視野を持って、欧米の政権が全て交替した後も存続するプーチン政権との付き合い方を考えなければならないのです。

◆必要なのは、対露包囲網ではなく、対中包囲網

3月16日に発刊された『「忍耐の時代」の外交戦略 チャーチルの霊言』(幸福の科学出版刊)では、日本はロシアよりも中国の覇権主義を警戒すべきであり、対中包囲網の一環として、日露の協力関係が必要だと説かれています。(http://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=1126)

現在はロシアが危険視されていますが、チベットやウィグル、南モンゴルへの侵略の後、人権弾圧、核戦力強化と不透明な軍拡を続ける中国に対して、何も制裁措置を取らない欧米諸国の判断はバランスを欠いています。

G7首脳会談で日本は制裁強化を要請されるでしょうが、対ロシア制裁は、欧米諸国への「付き合い」として、軽度な段階に止めておき、日露関係が長く停止するレベルにまで強化することは避けるべきでしょう。

そして、欧米の対露制裁と親中外交の不均衡の是正と、歴史認識問題への対抗策を兼ねて、今後、日本は国際社会に向けて、「天安門事件」に対する中国政府の説明責任の存在を訴えるべきです。(ロシアに比べて、中国の暗部は欧米圏に周知されていないため)

日本は西側諸国の一員であり続けなければいけませんが、その中で、長期的な視野の下に、日露関係も含めた対中包囲網を形成するための布石を打つ必要があるからです。

遠藤 明成

執筆者:遠藤 明成

HS政経塾

page top