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電力システム改革で本当に電気料金は安くなるのか?

文/岐阜県本部政調会長 加納有輝彦

◆改正電気事業法の成立

昨年11月、電力システム改革を3段階で進める「改正電気事業法」が国会で可決、成立しました。

3段階とは、

(1)2015年に全国規模で電力需給を調整する「広域系統運用機関※1」を設立する。
(2)2016年に電力小売りの参入を全面自由化し「地域独占」をなくす。
(3)2018~20年に電力会社の発電と送電部門を別会社にする「発送電分離」を実現する。同時に電気料金規制(総括原価方式※2)を撤廃する。

※1:広域系統運用とは、現在、沖縄を除いて9社に分かれている一般電気事業者の系統運用範囲を、いくつかに束ねて広域運用を行うこと。

※2:総括原価方式とは、電力会社が電気の供給に必要な年間費用を事前に見積もり、それを回収できるように料金を決めるしくみ。

◆戦後電気事業体制の大改革

これは、電力の鬼・松永安左エ門氏が主導しGHQの「ポツダム政令」に基づいて構築された、1951年以来の電気事業体制(地域独占、発送配電一貫、規制料金等)を抜本的に見直す大改革であります。

この電力システム改革は、大手電力会社による地域独占体制に風穴を開け、電力事業への新規参入や電力会社同士の競争を促し、サービスの選択肢を広げ、電気料金をできるだけ安くする狙いがあるとマスコミは報道しています。(日経2013/11/13)

◆総括原価方式の功罪

東日本大震災後、とりわけ東電に対する厳しい眼も手伝い、電気料金規制(総括原価方式)は否定的に語られることが多かったと思います。

ゆえに、この電気料金規制の撤廃により電気料金が安くなるというステレオタイプ(固定観念)を生んでいますが、話はそう単純ではないようです。

現在、高圧(電圧6000V以上)はすでに自由化され、料金は売り手と買い手の交渉で決まります。
一方、低圧(電圧100V200V)50kW未満は規制され、料金は国の認可で決まります。

規制料金は「総括原価方式」で算定されますが、これは長期にわたる電力会社の設備投資の回収を確実にすると共に、需給がひっ迫して価格が高騰するリスクから消費者を守る効果があります。

震災後に原発が停止して電気料金が上昇していますが、この程度の上昇で済んでいるのは「総括原価方式」の効果であり、規制がなければもっと料金は高くなります。

◆電力自由化で電気料金上昇

このように「総括原価方式」は長期にわたる電気料金収入を安定的に確保する制度で、原子力のような長期の投資を可能にしています。

電気事業の利益率はそう高くなく、料金が完全に自由化されれば間違いなく投資は短期志向になります。自由化すれば原発のような長期投資をする会社はなくなってしまいます。

実際に、電力自由化が行われた欧州では、各社が設備投資を控えるようになり、発電所が不足し、需給の関係で長期的には料金は上昇するという結果が出ています。

欧州ではガスや石炭など域内にエネルギー資源がありますが、日本の場合は化石燃料はすべて輸入です。このような環境では、日本ではほぼ確実に電気料金は上昇するという専門家も少なくありません。

また、現在の電力会社は膨大な送配電資産を保有し、その減価償却による営業キャッシュフロー(≒利益+減価償却)で、膨大な設備投資に伴う投資キャッシュフローを賄っています。

つまり、発送配電一貫で資産を保有するからこそ、原子力のような長期の投資を行うことが可能となっているのです。

しかし、これらの資産を切り離した場合には、誰も原子力には投資を行わなくなってしまいます。英国や、米国の発送電分離を行った州で顕著に見られ、諸外国の事例に明るい人ほど、発送電分離には慎重な意見を持っています。

◆歴史認識とエネルギー政策は連関している

このように電力システム改革により、メリットと共に、電気事業者が長期的視野にたった投資が困難になるというデメリットもあることを、私たち国民は冷静に知っておく必要があると思います。

さらに敷衍しますと原発の新設が不可能になるということであります。安全性をさらに高める為には、新規原発の建設による設備の更新が最も効果的であります。

資源のない日本の安全保障、発展繁栄のためには、新規原発の建設が不可欠であります。フランスは日本と同じく資源小国であり、EUのエネルギー政策に歩調を合わせつつも、原発大国として発電の80%を原発が賄っています。

フランスと日本の違いをあえて言えば、連合国(戦勝国)と敗戦国意識の違いでしょうか。わが国が自虐史観を克服し、正しい歴史認識を持つことができれば、エネルギー政策も自ずと確固たるものになると思います。

歴史認識とエネルギー政策は密接に連関しています。幸福実現党は、エネルギー自給率を高め、日本の安全保障を確固たるものにするべく研究を続けてまいります。

加納 有輝彦

執筆者:加納 有輝彦

岐阜県本部政調会長

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