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「出ずるを制して入るを量る」国家財政の実行を!

文/HS政経塾1期生 伊藤のぞみ

◆法人税率引き下げと税収増を両立した独・英・韓

先週20日、政府の経済財政諮問会議の民間議員は、法人税を減税しながら税収が増えた英国、ドイツ、韓国の事例について報告書を発表しました。

1995年から2012年にかけて実効税率を24.9%下げたドイツは5.6%、9%下げた英国は年平均4.8%、2000年から12年までに6.6%引き下げた韓国では9.4%法人税の税収が増加しています。

税率を下げ税収を増やすことに成功し、モデルとなっているのがアメリカのレーガン政権二期目の法人税改革です。

当時46%だった法人税率を34%まで引き下げながら、重厚長大産業に対する特別措置を廃止することで課税ベースを増やし、法人税収を増やしました。

今回の分析を受けて、報告書では「アベノミクスの成果による税収増の還元などによって、(法人税率をアジア主要国並の)25%の水準に引き下げていくべきだ」と提言をまとめています。

◆減税による税収増のポイントはデフレ脱却と景気回復

ただし、単純に法人税率を下げれば税収が増えるわけではありません。減税による税収増を実現するためには、景気回復とデフレ脱却が必須です。

日本においては、1999年と2004年の2回にわたり、法人税の実効税率を49.98%から39.54%に10.4%減税しましたが、残念ながらデフレによる景気悪化の影響で、法人税収は1.7%減少しています。

昨年から続く金融緩和でデフレ脱却の期待がありますが、4月からの消費税増税で、景気回復、デフレ脱却ともに難しくなります。

消費税の増税が景気を悪化させるのは、説明するまでもありませんが、補足すると、2013年10月から12月期の経済成長率の速報値は年率換算で1.0%と前期から落ち込んでいます。

甘利経済産業大臣は「民間需要を中心に景気が着実に上向いている」(2月17日)と発言していますが、消費税増税前の駆け込み需要であり、増税後の消費の冷え込みを楽観することはできません。

消費税増税は景気を後退させるだけでなく、デフレも悪化させます。デフレは需要の不足、供給の過剰によって発生します。

消費税の増税は企業の投資と個人消費を減らし、経済全体の需要を引き下げるので、デフレは長期化します。法人税減税で税収増を実現したいのであれば、デフレ脱却、景気回復は必須であり、消費税は増税すべきではありません。

◆減税のために必要な社会保障改革

 
もうひとつ、減税の議論が出るたびに、問題となるのが増えていく一方の社会保障給付費です。国民医療費(公的保険が適用される医療費の総額)は2011年度で38.5兆円と過去最高を更新し、13年度には40兆円を突破する見込みです。

また、介護保険に関しても、2012年の8兆円から2025年には20兆円に増加すると予測されています。2012年度末、53兆円を超えた年金の給付も、2025年には60兆円を突破し、社会保障給付の総額は149兆円に上ると言われています。(厚生労働省試算)

「増え続ける社会保障費にいかに対応するか」
政府の回答は以下のような形です。

・年金からの収入が年280万円を超える高齢者と、所得から経費を引いた年収が160万円以上ある自営業の高齢者が介護を受けるさいの負担を1割から2割に
・40歳から64歳が負担する毎月の介護保険料が4972円から5273円に
・国民年金の保険料が7%引き上げ(新規加入者に関して)

「給付をいかに増やさないか」ではなく、「負担を増やす」変更が目白押しです。
 
こういった「改革」で介護保険給付費を年1430億円抑制できると厚生労働省は試算していますが、8兆円から20兆円に増加する介護保険給付費にとっては焼け石に水です。

経営の基本として、「出ずるを制して入るを量る」ということが言われています。まだ入ってきていない収入を期待して、支出を決めるのではなく、まず出ていくお金を最小限に抑え、収入を増やす工夫をすることです。

国家財政の経営を見ると、全く「出ずるを制して」いません。現在の国家財政にとって必要なことは、この「出ずるを制す」仕組みです。

◆生涯現役―日本モデルの高齢社会を発信せよ

昨年、65歳以上の就業者数が41万人増加し636万人となり、就業者全体のうちの1割に達したという発表がありました。

※『高齢者が働く人の1割に』日経新聞電子版 http://www.nikkei.com/article/DGXNZO66980330Y4A210C1MM8000/
 
そして、増えたうちの6万人が建設業に就職しています。高齢の就業者に似つかわしくないと思える業種ですが、2020年の東京五輪開催に向けて、技術に信頼のおける高齢者を即戦力として積極的に採用したいと考える企業もあるようです。

年齢に関係なく働けることは、健康の維持にもなり、働いている人が多い地域は、一人当たりの医療・介護費が低いともいわれています。
社会保障において「出ずるを制す」もっとも根本的な政策は、年齢に関係なく健康で働くことができる社会をつくっていくことです。そして年金に頼るのではなく、生涯現役で活躍できる日本モデルの老後を世界に発信するべきときです。

参考文献 大川隆法『未来創造のマネジメント』(第二章デフレ時代の経営戦略)

伊藤 のぞみ

執筆者:伊藤 のぞみ

HS政経塾1期卒塾生

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