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「海洋大国・日本」―新たな国家ビジョンと安全保障【連載第4回】

文/幸福実現党総務会長兼出版局長 矢内筆勝

◆中国の海洋戦略の骨格

前回は、中国の建国以来の海洋戦略の流れの中で、2010年10月、尖閣諸島沖での「漁船衝突事件」が起きたというところまで述べました。この事件は、これから始まる侵略行動の「前哨戦」に過ぎないのです。

ここで、中国の海洋戦略の概略、骨格を見ておきます。2013年4月に海洋政策研究財団の川中敬一氏が発表した 『中国の海洋進出』(海洋政策研究財団)――「海洋をめぐる中国の戦略的構造」によれば、中国の海洋進出の戦略的な方向性と目標が見えてきます。

2013年段階で中国海軍は、「戦略目標」において、「第1列島線内制海権掌握」の時期であり、すでにDDG、AWACS、DD、FFなど、欧米に比肩する近代的な戦艦群が登場しているものの、それもまだ「開発段階」に過ぎません。

(注)
DD――駆逐艦
DDG――艦対空ミサイルを搭載した駆逐艦
FF――対空・対潜・対水上などの兵装を備えたフリゲート(護衛艦)
AWACS――空中目標をレーダーにより探知・分析して航空管制や指揮を執る早期警戒管制機
SSBN――潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を搭載した原子力潜水艦
SLBM――潜水艦発射弾道ミサイル

この計画では中国海軍は、2030年から大型空母戦闘群を開発し、2040年代の「完成」を目指すとしていますが、それらの計画は、かなり前倒しされている可能性があります。

空母建造に関しては、ウクライナから購入した未完成の空母「ワリヤーグ」を改装して、2012年9月に「遼寧」として就航させています。

現在、国産空母を建造中とされ、2016年には2隻体制、2020年には、4隻の国産空母機動部隊を建造予定とも言われています。

◆「接近阻止・領域拒否(A2/AD)戦略」

その過程で現在中国軍が実行している軍事戦略が、「接近阻止・領域拒否戦略(A2/AD Anti-Access/Area Denial)と呼ばれているものです。

その目的は、台湾や南シナ海、東シナ海で軍事行動を起こす際に、第1列島線は当然のこと、米軍を第2列島線内から排除し、その行動と関与を封じることです。

その主たる作戦目標は米空母で、具体的には、第1、第2列島線内への、大陸から発射される弾道ミサイルや航空機からの巡航ミサイル、原子力潜水艦、軍艦などによる攻撃が準備されています。

さらに、日米の主要作戦基地や作戦支援設備への直接攻撃も含まれていると見られています。

◆日本の主要都市に照準が定められている「東風21」

A2/AD戦略の切り札として、中国軍が開発を進めているのが、中距離弾道ミサイル「東風21」(DF-21)を対艦誘導ミサイルに改良した、DF-21Dです。

「東風21」はすでに、核を搭載した多弾頭中距離弾道核ミサイルとして実戦配備されており、日本のほぼ全ての主要都市に照準が定められているとされています。

改良型のDF-21Dの射程は約1500~2000キロメートルで、第2列島線内(西太平洋)をその射程内に収めています。

中距離弾道ミサイルを移動する空母に命中させる技術は、欧米では未だ開発されていません。中国がもし開発に成功したならば、米国の空母機動部隊にとって、極めて大きな脅威となることは必須です。

このように、中国軍の日本に対する核心的な戦力は、戦闘機などの通常の戦力だけはなく、その背後に存在する、人民解放軍第二砲兵部隊と海軍、空軍の中距離(核)弾道ミサイル、そして長距離巡航ミサイルであることを、私たち日本人は知らなければなりません。

つまり、もし中国が日本と本格的な軍事衝突に突入する意思を固めた場合、中国は戦闘機や潜水艦、軍艦などの従来の兵器を使った戦闘よりも「(核兵器を含む)長距離射程ミサイルによる攻撃」によって日本を恫喝、または実際に攻撃する可能性が極めて高いのです。

しかも、中国はすでに数百~数千発もの核弾頭を有する「核大国」であり、すでに日本の全ての主要都市に対して、「東風21」を中心とした核弾頭を搭載した中距離弾道ミサイルの照準を定めているとされています。

中国の、こうした核弾道ミサイルを含めた長射程ミサイル群(中距離弾道ミサイルと長距離巡航ミサイル)こそ、北朝鮮の核ミサイルとは比較にならない、我が国が直面する最大の脅威であるのです。

そのことを日本人は自覚し、早急にそれらに対する防衛体制を構築し、有効な抑止力を持たなければなりません。

次回は、「日本の安全保障の要となるシーレーン防衛」についてお送りします。
(つづく)

やない 筆勝

執筆者:やない 筆勝

幸福実現党総務会長兼出版局長

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