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次世代スパコン開発――「世界一」を目指す未来ビジョンを示せ!

文/HS政経塾3期生 和田みな

◆世界のスパコン事情

日本のスーパーコンピュータ(スパコン)開発は、民主党政権下で2009年11月に行われた「行政刷新会議」による“事業仕分け”において、蓮舫議員から「2位じゃダメなんでしょうか?」と詰め寄られ、予算計上見送りに近い大幅な予算縮減をうけたことで、逆に注目を集めました。

その後、理化学研究所と富士通の共同開発によってスパコン「京」の開発が進められ、2011年6月にはスパコン処理能力ランキング「TOP500」で、ついに世界1位となり、日本の技術力の高さを世界中に示したのです。

最新の2013年11月に発表されたスパコン処理能力ランキングでは、1位は中国人民解放軍国防科学技術大学が開発した「天河2号」、2位は米のオークリッジ国立研究所の「Titan」、3位も米のローレンスリバモア国立研究所の「Sequoia」、そして4位が日本の「京」という順になっています。

◆国の発展・防災・防衛に欠かせないスパコン

スパコンを簡単に説明するならば「超大型の計算機」です。「京」は毎秒約1京(1兆の1万倍)回の計算能力があります。

このような計算能力を使用することで、実際には起こっていない、解明されていない未知のものをシミュレーションし、スピーディーに、より正確に予測・研究することが可能になります。

具体的には、生命科学・医療・新薬、化学・新物質・エネルギー、気象予報・防災・減災、宇宙・航空など、さまざまな分野の進歩発展に役立ちます。

近年の中国における目覚ましい宇宙開発にはスパコン「天河1・2号」も大きく影響しています。世界一のスパコンで目指すのは、世界一の研究によって、最先端の技術や素材を生みだすことにより、国を発展させることなのです。

また、各国政府がスパコン開発に力を入れているもう一つの理由は、国防・軍事においてスパコンが重要な役割を担っている点にあります。

軍事作戦に欠かせない気象予報、ミサイルや核兵器の予測・シミュレーション・管理、最新兵器や航空機の開発、宇宙技術、サイバー攻撃への防衛など、あらゆるところで使用されています。世界一のスパコンは国の安全を強力に守るのです。

◆再び「世界一」を目指す日本の挑戦

昨年12月24日に閣議決定した平成26年度予算案には、新規事業として次世代スパコンの開発予算が12億円計上されました。2018年には製造を開始し、2020年の運転を目指す「ポスト京」は、約1000億円の予算で「エクサ(100京)」級の計算速度を目指します。

一方、米国や中国などライバル国も次世代のスパコン開発をすでに始めています。

現在1位の中国の「天河2号」は、「天河1号」の改良版で、米インテル社製のコアを使用しており、まだ純国産スパコンとはいえませんが、「天河1号」開発からわずか2年で、CPU、OS、ソフトウェアツールなどの大半の構成要素を中国製で独自開発してきたことは、日本や米国にとって大変な脅威です。

◆トータルで「世界一」を目指す未来ビジョンを

世界No.1のスパコン大国アメリカは、処理速度1位の座は現在、中国に明け渡してはいるものの、「TOP500」入りしたスパコンを国内に265台持ち、各地で最新の研究が盛んに行われています。(2位は中国で63台、3位は日本で28台とその差は歴然としています)

アメリカのコンピューター開発が成功している理由は、金田康正東大教授によると「コンピューター技術の周囲にカネとヒトが集まる環境づくりに成功している点」にあると言われています。

次世代スパコンで「No.1」を目指すことは重要です。しかし、これまでのような処理速度のみを追求するスパコン開発ではその効果は半減します。

米国のように、国家が開発プロジェクトを直轄管理せずに、支援する仕組みづくりで多くの企業がスパコン開発・使用に参加できること、スパコンを真に使える人材づくり(「それで何をしたいのか」「どのように社会に貢献するか」という視点を持った理系人材の育成)という環境も整えなければ、次世代スパコンで真に「世界一」を目指し続けることは不可能です。

そして何より、そのスパコンを使って、日本がどのような国を目指し、世界を発展させていきたいのかという政府の明確な「ビジョン」があって初めて、「志」を持った優秀な人材・企業がスパコン事業に参加し、開発事業が永続性を持ったものになるのだということを忘れてはいけません。

スパコンはあくまで道具です。私たちは世界一のスパコンを使って、世界に一番幸福を与えることができる日本を目指して参ります。

参考文献:金田康正著『スパコンとは何か?』(ウエッジ 2012)

和田みな

執筆者:和田みな

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