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北極海航路開拓への挑戦と北の守りの強化を!

◆新たなるフロンティア、北極海航路

北極海の夏季の氷が年々薄くなっています。

アメリカ連邦政府は3~5年後の夏季には、北極海が全く氷結しなくなる可能性があるという予測をしてます。

現在は、北極海航路が利用できるのは7月から10月までの4ヶ月前後というのが定説ですが、古い氷が積み重なった多年氷に代わり、砕きやすい一年氷が増えれば、通年の航行も可能となるとも言われています。

これにより、アジアとヨーロッパを結ぶ最短ルートが注目を集めています。

こうした地政学的変化を受け、各国はロシア沿岸の北極海を横断する「北極海航路」の重要性を位置づけ直し、新たな戦略を作成しています。

ロシアのプーチン大統領は、北極海航路をスエズ運河に比肩する世界の大動脈に発展させる方針を示し、インフラ整備に力を入れるよう、2年前から関係当局に発破をかけています。

さらに、ロシアは原子力潜水艦の建造を急いでいます。北極海の海上アクセスを活用したロシアの北方艦隊強化の動きに警戒が必要です。

また、アメリカは「融氷した北極海における海軍作戦」の立案を急いでいるようです。

◆日本にとっても重要な北極海航路

8月16日、ナフサ(粗製ガソリン)を積んでノルウェーを出発したタンカーが水島コンビナート(岡山県)に到着しました。実際にナフサタンカーが北極海を航海したのは初めてのことです。

スエズ運河を通る南回り航路では40日かかるところ北極海航路では25日程度で、日程を4割短縮しました。

運航コストにおいて砕氷船のチャーター料金は発生しますが、「スエズ運河の通航料や海賊対策の武装コストと変わらない」(旭化成ケミカルズ)とし、運航日数が短い分、2割程度安くなっています。(8/16 日経「北極海航路資源に『近道』旭化成など、北欧からナフサ 機動的調達可能に」)

現在使われている南回り航路には、不安定要素が数多く存在します。

ソマリア沖の海賊問題をはじめ、エネルギー輸入の大部分を頼る中東の不安定な政治情勢、中国の覇権拡張主義に脅かされる南シナ海、併合へのカウントダウンが始まろうとしている台湾近海などです。

ただ、日本は現在、原発を再稼働できないことから、石油や液化天然ガスなどほぼ全てのエネルギーをタンカーで輸入せざるをえません。

中国によるシーレーン封鎖などに対するリスク分散として、北極海航路の更なる活用は当然であり、ナフサのほか、液化天然ガス輸入も検討されています。

国としては国交省が昨年8月に北極航路の利用に向けた検討会を立ち上げましたが、諸外国と比べてあまりに後れを取っている状態です。

◆東シナ海、南シナ海に続いて北極海を狙う中国

特に中国は、自国が「北極に近い国」であると称し、北極海での権益確保にかなり積極的に乗り出しています。

北極評議会(米・露・カナダ・デンマーク・ノルウェー・アイスランド・フィンランド・スウェーデンの北極圏に関して直接的な利害を得るとされている8カ国で構成)がOKを出した会議にしか参加できないアド・ホック・オブザーバーの立場であった中国は、オブザーバーの地位を狙って外交を展開。

例えば今年4月アイスランドとFTAを締結し、自国への輸出を前年の40%以上増加させ、友好国を増やす外交を展開。

その結果、今年5月に行われた北極評議会の会合で、カナダやロシアの強い反対にもかかわらず、中国は閣僚級会議以外のすべての会議に参加できるオブザーバーの地位を得ました(日本、韓国も同様)。

現在は、世界最大の砕氷観測船「雲龍」を保有。過去5回にわたり北極観測航海を行っている他、新たな砕氷観測船を建造中です。

また、ノルウェーに観測所を設けており、アイスランドにもオーロラ観測基地をつくる計画があり、相当の先行投資を行っています。

東シナ海、南シナ海に続き、世界の未発見のガスが30%、原油が13%眠るとされる北極海を手に入れるため、着々と計画を進めているのです。

◆今後、熱くなる北極海航路に伴う守りを十分にせよ

一方で日本には中国、韓国が持っている砕氷船すらまだありません。今後は、砕氷船の建造・取得と共に、北極海航行用船舶の整備や専門技術を持つ船員の育成の課題なども出てきます。

また、北極海航路の利用が増えるにしたがって必要となるハブ港に、中国の大連港や韓国の釜山港が名乗りを上げていますが、本来であれば、北東アジアで一番北極海航路に近い位置の日本の苫小牧港がその役割を果たすべきです。

更には「北のシーレーン」防衛の問題が発生します。中国は20年には海上貨物の最大15%を北極海経由にする計画を持つとされています。

今年7月、中国海軍の艦艇5隻が宗谷海峡を通過したのが初めて確認されましたが、宗谷海峡は中国が海運拠点として有望視する北朝鮮の豆満江(とまんこう)から北極海に向かう「北のシーレーン」上にあります。

「北極海航路の重要性が増すにつれ、日本北方海域での各国海軍の動きはますます活発になる」と日本の防衛省関係者は指摘しています。(8/28 日経「『航路の利用進む北極海』=軍事機密、共通海図阻む=」)

中国は今後日本の宗谷海峡、加えて北極海への最短ルートである津軽海峡を頻繁に通過するようになるでしょう。津軽海峡の真ん中は、現在、公海となっています。

公海を通行しても日本が何もしてこないということを知っている中国が、この海峡を重要かつ脆弱なポイントとして認識していることは明らかです。

日本は今後、これら公海を含む海峡の定義の見直しと管理を強化し、中国を牽制しつつ国防を強化すると共に、新たなフロンティアである北極海航路開拓に向けて、積極的に打って出る必要があります。(文責・湊 侑子)

みなと 侑子

執筆者:みなと 侑子

HS政経塾1期卒塾生

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