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景気は本当に回復しているのか?――「統計のウソ」に騙されるな!

◆4-6月GDP統計速報値で「消費増税」に傾く安倍政権閣僚

8月12日、安倍首相が来年4月からの消費税増税の判断材料にするとしていた、4-6月期の国民所得(GDP)統計の速報値が発表されました。

速報値によると、実質GDPは前期比プラス0.6%、年率換算でプラス2.6%となりました。

1-3月の年率プラス3.8%から減速したものの、2期連続で2%以上の成長を達成し、安倍首相は「政権発足以来、順調に景気は上がってきている。」と語りました。

また、速報値を受けて、甘利経済再生担当相は「(消費増税の)判断材料の一つとしては、引き続きいい数字が出ている」と述べ、消費増税に前向きの意向を表明しています。

更に、麻生財務相は15日の閣議後の記者会見で「極めて順調な数字ではないか」「消費税を上げる方向では、いい影響を与えたのではないか」と述べました。(8/15 産経「『消費増税にいい影響』4~6月GDPで財務相」)

安倍首相は、今回の速報値が消費税率引き上げの判断に与える影響については言及していませんが、安倍政権の閣僚が消費増税に前のめりになっていることは明らかです。

◆景気は本当に回復しているのか?

しかし、果たして、本当に景気は回復しているのでしょうか?

私は選挙活動を通じ、多くの国民の皆様のお声をお聴きしましたが、「景気が回復している」と実感されている方はほとんどいらっしゃいませんでした。

速報値の数値を押し上げた主因は、アベノミクスの「第一の矢(大胆な金融緩和)」と「第二の矢(政府の財政出動)」によるものであり、また、株高の恩恵を受けた富裕層による個人消費の拡大です。

したがって、政府が宣伝する「景気回復」は、大部分の国民の生活実感からはかけ離れたものとなっています。

統計はウソをつきます。消費増税を断行すべく、本年上半期の「景気回復」が演出されているのではないか、疑ってかかるべきです。

◆消費増税導入は「時期尚早」

実際、今回の速報値で、年率換算でプラス2.6%の成長となりましたが、市場の事前予測(3.4%)を大きく下回りました。

特に、景気回復のメルクマールとなる企業設備投資は依然、マイナス0.1%と引き続き水面下に沈んだままで、2012年1-3月期以降、6・四半期連続でマイナスとなっています。

住宅投資の実質成長率もマイナス0.2%と、5・四半期ぶりに減少に転じました。

また、一人当たりの給与水準を示す4-6月期の現金給与総額は依然、横ばいのままです。(8/13 東京「GDP2.6%増 物価高先行 賃金増えず」)

厚生労働省が7月31日に発表した毎月勤労統計調査を見ても、所定内給与は前年比0.2%減で13カ月連続で減少を続けています。

国民の収入が増えないまま、消費増税に突入すれば「消費不況」が起こり、経済に大打撃をもたらすことは避けられません。

実際、明治安田生命の試算によると、現行通り、消費税を増税すれば、増税を見送る案に比し、「2014年度の実質成長率が▲0.5%、2015年度は▲0.8%押し下げられる。」と結論づけています。(「経済ウォッチ」2013年8月第2週号)

こうした状況に鑑み、内閣官房参与の本田悦朗・静岡県立大学教授は12日、「予定通りの消費増税の環境が整ったとは言えない」と指摘。

同じく内閣官房参与を務める浜田宏一・米エール大名誉教授も、「増税のタイミングを1年先延ばしにすることも一案」と語っています。(8/12 ロイター「4-6月期GDPは設備投資など伸びず減速、『名実逆転』は解消」)

◆安倍首相は「景気条項」に基づき、消費増税を停止せよ!

消費増税については、「もう決まったことでしょ!」と言われる方もいらっしゃいますが、消費増税法には「景気条項」という“ストッパー”が用意されています。

「景気条項」、すなわち、消費税増税法の附則第十八条2項には、消費増税の「施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」とあります。

この条項の主語は曖昧ですが、消費増税法関連法案成立時の民主党、自民党、公明党の「3党合意」に基づく「税関係協議結果」には、附則第18条について「消費税率(国・地方)の引上げの実施は、その時の政権が判断すること」とあります。

すなわち、安倍政権が経済指標を確認し、「経済状況の好転」に至っていないと判断すれば、消費増税を停止することは法律上、可能なのです。

「消費税増税をするか、しないか?」の最終判断は、安倍首相に委ねられています。

現状、国民の実感としても、統計を詳細に分析しても、まだまだ「経済状況の好転」に至っているとは言えない状況にあります。

消費増税の最終判断は9月中旬頃と見られていますが、安倍首相には、日本経済を再び転落させる消費増税を停止し、歴史に名を残す英断を行った総理となって頂きたいと思います。(参考:JTR 日本税制改革協議会「安倍総理を納税者のヒーローにしよう!」⇒http://www.jtr.gr.jp/015webtsusin/001150.html

(文責・政務調査会長 黒川 白雲)

黒川 白雲

執筆者:黒川 白雲

前・政務調査会長

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