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「国防の気概」はあるか――平成24年度『防衛白書』の問題点

尖閣・沖縄情勢が緊迫化する中、閣議で平成24年度版『防衛白書』が了承されました。(防衛省 平成24年度版『防衛白書』⇒http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2012/w2012_00.html

メディアは、中国共産党幹部の腐敗問題や政軍関係の複雑化など、中国の内政上の懸念にまで踏み込んだ新しい防衛白書の内容を評価しています。

しかし、国難が迫る中、民主党政権の弱腰姿勢を反映して、従来の「専守防衛、日米安保依存」という枠組みから大きな変化は見られず、「国防の気概」を打ち出すには程遠い内容であると言わざるを得ません。

中国が侵略的な軍備を増強し、2020年をめどに地域の覇権国としての地位を確保することを目指しているのは明らかです。

「台湾の軍事統一」を狙う中国の国家戦略や、軍事国家である中国の本質について、もっと斬り込むべきです。

また、同白書は、中国の政軍関係について「党の意思決定プロセスにおける軍の関与は限定的であるとの指摘もある」と述べていますが、中国の政軍関係が自由主義国のように「政治が軍を支配する」関係にあるように捉えるのも、ほどほどにすべきです。

「危険な軍事国家は中国の方である」と指摘できなければ、「国防の気概」は立たず、弱腰外交を見せつけるのみです。

実際、中国外務省は日本の防衛白書について「中国は防衛的な国防政策を遂行しており、いかなる国家にも脅威にはならない」「他国の正常な軍の発展を大げさに言う国には別の目的があるに違いない」と反論し、逆に「中国脅威論」を利用した日本の軍国主義化を懸念して見せています。(8/1 日経)

中国は台湾の軍事統一を国家目標に据えて、着々と軍事力を増強しています。

米国防総省のレポート『中国の軍事力2012』によれば、既に中国の沿海部には1000発の短距離弾道ミサイルが配備し、台湾を射程にとらえ、給油なしで台湾を攻撃できる軍用機数は米軍に拮抗してさえいます。

また、台湾海軍の3倍以上の水上艦艇、10倍以上の潜水艦を配備して、台湾を海から封鎖するための準備を整えています。

更には、1995年・1996年の台湾海峡危機の際に受けたような「米国の軍事介入」を排除するため、米国やその同盟国の都市(もちろん日本にも)を標的にした核弾道弾を実戦配備しています。

中国共産党は、戦後いかなる政治的混乱や経済危機があっても、優先して資源配分を行い、核ミサイルの開発を続けて来ました。

「米国を威嚇できる」核ミサイルの開発を目指し、国民の飢餓を無視して一直線に突き進んできたのが「軍事国家」たる中国の正体です。侵略的な軍備・性質を整えているのはどちらであるのか、既に明らかです。

加えて指摘すれば、アーミテージ氏が読売新聞に寄稿したように「日米安保に依存していれば国防が成り立つ」とする考え方からも脱却しなければなりません。

「私は古くからの日本の友人として、集団的自衛権をどう扱うかを決める権限は、ひとえに日本国民にあると主張してきた。だが、こういわなければ正直ではあるまい。日本の憲法上の制約は今後、日米同盟にとって、さらに重大な問題になるだろう。『最均衡』政策は、21世紀の挑戦に立ち向かうパートナー探しでもあるのだ」と氏は述べています。(7/22 読売)

中国の軍事的台頭に対処するには、米国と日本が今まで以上に緊密な関係を築かなければなりません。

NPO法人岡崎研究所の岡崎久彦氏は「これからの日米協力は、いかに中国の戦争から台湾を守るか」にかかっていると指摘しています。その際、東シナ海が「決戦海域」となる可能性があることも指摘しています。(『Voice』2012年8月号「台湾を日米協力で死守せよ」)

防衛省は、このような中国の核ミサイル戦略、台湾統一戦略、その過程での海洋進出にもっと白書の頁数を割くべきでした。

台湾統一作戦が実施される過程で、与那国・石垣・尖閣などが封鎖・上陸の危機に瀕する可能性があることも明記すべきです。

更には、個々の事象を列挙するのみならず、「中国が台湾統一を放棄しない以上、南西諸島に対する危機が遠ざかることは無い」という大きなビジョンを提示する事こそ、国防の専門家集団たる防衛省の仕事ではないでしょうか。

「自分の国は自分で守る」――こうした主権国家として当たり前の主張すらできないところに、わが国の国防は根本的な問題を抱えています。

中国の国家戦略を放棄させるためには、憲法九条改正や、集団的自衛権の行使は言うに及ばず、「中国の核がわが国の脅威となっている以上、わが国としても、世界の平和と安定を守るため、独自の核武装の検討に入らざるを得ない」と言って、中国に核放棄を迫るぐらいの強気の政治家が必要です。
(文責・HS政経塾一期生 彦川太志)

彦川 だいし

執筆者:彦川 だいし

HS政経塾第1期卒塾生/党政調会・外交部会

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