デフレ不況下の増税こそ禁じ手だ
円高が過去最高の75円台を記録しました。野田佳彦首相は、状況を見守るばかりであり、安住淳財務相は、為替介入の可能性について言及していますが、為替介入は対処療法であり、効果は限定的です。
根本は、日本が諸外国に比べてデフレであること。デフレの原因は通貨供給量を絞っているからです。政府から出てくる対策が、為替介入ではなく、金融緩和によるデフレ脱却に踏み込めば、為替水準はすぐに変動します。ところが、一向にデフレ脱却のために金融政策に言及していないところを見ると、政府は円高の根本原因を見抜けていないと断言できます。
さて、日本経済は、物価が継続的に下落するデフレと、モノが売れず、失業が多い不況という状態にあります。デフレと不況が同時に進行している中で、3月11日の東日本大震災が起こりました。また、原発事故が追い打ちをかけ、日本経済に対するダメージは計り知れません。このように、日本は非常事態であるにも関わらず、政府内で議論されているのは増税論一色です。金融緩和も規模が小さく、日銀が危機に対処しているようには見えません。このままの状態が続けば、日本経済への下ぶれ圧力となり、デフレ、円高が進行することになります。
本来ならば、日銀の国債引受や政府資産の売却、特別会計からの剰余金の取り崩しを通じて復興財源を確保することが先決です。「千年に一度の大震災」であるならば、財政法5条の但し書きに明記されている「特別の事由」に相当するので、政府内で復興債の日銀引受は検討に値する政策です。なぜなら、デフレ、円高、復興財源の三つを一気に解決できるからです。
ところが、日銀を筆頭に、日銀引受は過度なインフレを招き、財政規律と通貨の信任を失うから「禁じ手」だという反論が根強く存在します。確かに、日銀引受を継続していれば、通貨量が増えるので、物価が上がることはあります。ただ、数百%にのぼるハイパーインフレとなる可能性は、国民一人に1億円を配らない限り起こらないというのが現実で、必要以上にインフレを恐れるのは間違っています(嘉悦大学の高橋洋一教授の説)。
財政規律や通貨の信任といっても、明確な定義はありません。前者は、安易な国債発行に依存すれば、財政赤字が増え続けることへの懸念でしょう。後者は、引受を通じたインフレが起きることで、円に対する信頼を失い、円売りが加速することを指すと思われます。いずれにしても、どのような状態になったら財政規律と通貨の信任が失われるのかという、明確な定義は存在しません。半ばステレオタイプな発想による反論だと見てよいでしょう。
私が不思議に思うのは、日銀の直接引受よりもデフレ不況下で増税を進める方がよほど経済に対するマイナス効果が高いということです。
理由は四つあります。
一つ目は、増税によってデフレ圧力が一層深まること。二つ目は、デフレが進行すれば、円高が継続すること。三つ目は、増税しても、税収は増えないこと。四つ目は、消費と投資の落ち込みによる経済成長率が低下することです。
前半の2つは、既に触れました。特に、行き過ぎた円高は、輸出企業を抱える我が国では無視できません。中長期的なトレンドならば、円高でもメリットはあるのですが、これだけ短い間に通貨が高くなると、企業の収益を圧迫するのは必至だからです。
三点目は、幸福実現党が立党当初から主張している論点です。四つ目は、既に、直感的にも理解できるのではないでしょうか。傷口に塩を塗るようなものであり、火に油を注ぐように、事態を悪化しかねません。
復興増税にせよ、社会保障の財源確保による消費税の引き上げにせよ、デフレ不況下での増税にはメリットはありません。経済を一層悪化させることが明確な以上、日銀の引受以上に、デフレ不況下の増税の方が禁じ手と呼ぶにふさわしいでしょう。
そもそも、震災復興を増税によって進めることは、世界でも例がない異常事態です。慶応大学の岸博幸教授は、現在の増税路線に対して、「国を挙げた『増税万歳』状態の異常」(ダイヤモンドオンライン 9月23日)という言葉で、現政権を批判していますが、国民も増税を容認する方向で世論が形成されていることにも危惧を覚えます
禁じ手を巧妙に正当化、国民を苦しめようとしている以上、我々は黙ってみているわけにはいきません。そのために、幸福実現党は11月5日に開催される「増税が国を滅ぼす!国民集会」に協賛団体として参加し、行動を起こすのです。多くの皆様にご参加頂ければ幸いです。 (文責:中野雄太)