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米国防費大幅削減の危機―迫られる日本の「自主防衛」強化

米国の国防予算削減問題が、各方面に対して、アメリカの軍事力が世界規模の展開能力を失うのではないかという懸念を抱かせています。

米国のウィリアム・リン国防副長官は10月5日、超党派の議会の特別委員会での歳出削減案がまとまらない場合、国防予算が今後10年で1兆ドル以上削減の可能性があると語りました。

今年8月、米国では財政赤字の増大を防ぐために、議会に超党派の特別委員会を設け、今後10年間に合計1兆5000億ドルの支出削減案を勧告させ、米議会で採決することが決まりました。

同委員会が11月23日までに合意に達しない場合、合計1兆2000億ドルの支出削減が自動的に決まり、その多くが国防費削減になると見られています。

現在、民主党左派は社会保障費削減を絶対譲らず、共和党右派は小さな政府を主張して増税を決して受け入れない姿勢を示しているため、両党の合意は厳しいものと見られており、結果的に国防費に大きな皺寄せが及ぶ見込みです。

その場合、来年度の国防費は1000億ドル(7.7兆円)以上、自動的に削減され、世界での米軍の抑止力が大幅に低下します。

米国下院軍事委員会の調査報告書によると、自動的な支出削減が実行された場合、ここ数年のうちに陸軍と海兵隊の合計兵員が約20万人縮小、空軍の戦闘機が約2100機減少、戦略爆撃機が約50機削減、海軍の艦艇が約60隻削減、空母が2隻削減、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が約100基削減されるとしています。

これらは個々に見ると、旧式化した兵器の退役が大半であり、新型兵器への代替や効率的運用を行えば、即座に米軍の実質的な戦力低下をもたらすものとは考えられませんが、過度の削減は、アメリカが緊急事態に対処するための戦力的余裕を喪失させます。

実際、朝鮮戦争は東西冷戦における最初の代理戦争ですが、第二次世界大戦終結に伴う大幅な軍事力削減により、紛争初期においてアメリカ軍の本格的な軍事力投入が遅れ、朝鮮戦争初期の敗北に繋がっています。

また、リン国防副長官は、陸軍や海兵隊など地上部隊の規模が削減の最大の対象になると述べ、「海外駐留米軍の規模は確実に縮小される」と語っています。

その結果、相当規模の在日米軍撤退に至る可能性もあり、日本の安全保障にとっても重大な問題が生じます。

在日米軍の米国本土への撤退が進めば、沖縄や台湾、朝鮮半島有事における抑止力や即応力が犠牲になるばかりか、南シナ海やインド洋における中国の覇権主義的拡張がますます拡大し、シーレーン防衛も深刻な問題になります。

オバマ大統領は就任以降、社会保障の拡充を行い、社会保障費を急激に増やす一方、軍事力軽視を続けており、それが結果的に世界各地における軍事的緊張を高めることに繋がりかねません。

米国の軍事費の大幅削減を見据え、日本としては日米同盟強化を基軸としつつも、憲法9条改正、空母艦隊保持や核抑止力強化などの「自主防衛」強化に取り組むべき時期が目前に迫っていると言えます。
(文責・黒川白雲)

黒川 白雲

執筆者:黒川 白雲

前・政務調査会長

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