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規制緩和による生産性の向上はデフレを招くというのは本当か?

文/HS政経塾スタッフ 赤塚一範

6月下旬に、政府はアベノミクスの新たな指針「経済財政運営と改革の基本方針」を発表しました。安倍政権のブレーンである浜田宏一氏は、アベノミクスの第一の矢はA、第二の矢はB、第三の矢はEでABE(アベ)だとよくおっしゃっているようです。

これは第三の矢は本腰をいれた改革を進めるべきということです。

一方、著名な経済評論家の三橋貴明氏は、第一の矢と第二の矢には賛成ですが、第三の矢には多くの点で反対だといくつかの著作で明言されています。今回はこの成長戦略について述べてみたいと思います。

◆経済学の二つの流れ

経済学には大きく二つの流れがあります。一つはアダム・スミスに始まる古典派、新古典派の流れです。もう一つの流れは、世界大恐慌時にいわゆるケインズ革命をおこし経済学に革新的変化を与えたケインズの流れです。

アダム・スミスは、国富論を記しましたが、その要旨は資本蓄積と分業によって一人一人の生産性を上昇させることによって国が豊かになっていくというものです。アダム・スミスは生産性の向上を重視しているのでこれは経済を需要と供給の二つの面で考えた場合、供給面を重視していると言えます。

一方、ケインズは世界恐慌が起こった時、有効な手を打てなかった古典派を批判し「一般理論」を記しました。この中でケインズは、恐慌時には「お金の入った壺を埋めて掘り返すだけでもよい」ということを言っています。

これは、民間に仕事とお金を与え、お金を流すことによって購買力を刺激し需要を強化するからです。この意味で、ケインズは需要面を重視しまた。

このように、古典派の理論は好況時のように、需要が供給を上回っているときに説得力をもち、一方、ケインズ理論は「豊富の中の貧困」つまり、生産力は余っているのに需要不足で失業と貧困が発生している、デフレ不況時に説得力をもちます。

◆アベノミクスはケインズと古典派の混合である

次にアベノミクスについてみてみましょう。

アベノミクスの第一の矢「大胆な金融緩和」、第二の矢「機動的な財政政策」は日銀がお金を刷って、公共投資で政府が使い、需要を刺激して景気を良くするというものでケインズ的な政策です。

一方、第三の矢「民間投資を喚起する成長戦略」は、民間投資需要を喚起するという意味で短期的にはケインズ的と言えますが、中長期的には、規制緩和や構造改革によって供給を強化するという意味で古典派的な政策です。

このようにアベノミクスはケインズ理論を中心に、古典派的な理論を混ぜた政策なのです。

経済評論家の三橋貴明氏は、第一の矢と第二の矢には賛成ですが、第三の矢には反対だと明言されています。それは、第三の矢は経済の供給能力を増すのでデフレを強くするからだそうです。(※ただしインフラ整備による生産性の向上には賛成しておられます。)

私は、三橋氏の理論の多くの点で賛成なのですが、この「デフレ時に生産性を上げ供給を強くするのは間違いである」という説には多少違和感を持ちます。

◆生産性の向上は中身で考えることが重要である

生産性を考える場合、生産性向上の中身を見ることが重要ではないでしょうか。

例えば、一台の車の生産を、同じ時間で、半分の人数で生産できれば、生産性が2倍になったといえます。基本的に生産性が2倍になれば一人あたりの賃金は2倍になるのですが、この時に新たな需要が見込めなければ、生産性の向上によって賃金が下がるか、失業が生まれることになります。

この生産性の向上は機械などを導入することによって起ることが多いのでマルクスこれを「機械に仕事が奪われる」と表現しました。三橋氏の考え方はこれに近いのではないかと思います。

確かに同じ商品を生産する場合はそう言った面はあるでしょう。しかし、まったく新しい商品を発明する場合は、例えば、パーソナルコンピュータ、ファクシミリ、テレビ、携帯電話などは、既存の産業の需要を少し奪ったかもしれませんが新しい需要を掘り起こしました。

また、それに付随して新たなサービスや産業が副次的に生まれました。また、同じ商品であっても高付加価値路線で勝負することも重要です。

例えば、マクドナルドの100円のコーヒーと、高級なレストランのコーヒーは、見た目は同じですが、落ち着いた環境やコーヒーの味という点で付加価値をつけています。農業に関しても、規制緩和をすることによって質の良い日本の農業が中国の農産物を駆逐するということが起る可能性もあります。

生産性を中身で考えない原因はどこにあるのでしょうか。それは現在の経済学にあります。マクロ経済学などは基本的に一国の財をすべて同一であると仮定して考えます。そこに問題の根源があるのです。

このように規制緩和は単に既存の供給を強化すると考えるのではなく、企業の活動範囲を増やし、新たな商品やサービスを増やす機会と考えることがデフレ脱却に真に必要なことであり、現在の経済学のフロンティアとなる部分ではないでしょうか。

赤塚一範

執筆者:赤塚一範

HS政経塾スタッフ

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